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How did you feel at your first kiss?
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 完璧に整っている跡部の指が、時々、彼のこめかみから頭部をかなり強い力で鷲摑みにしている仕草が目に付いて、神尾は言った。
「跡部、ひょっとして頭痛いのか?」
「………………」
 振り返ってきた跡部は。
 何だか嫌そうな顔で神尾を見た。
「さっきから何回かそうやってるけど」
 構わずに神尾が跡部の手の所作を指摘すると、今度は睨まれた。
 しかし神尾は気にしない。
 跡部のベッドに寄りかかるようにして床に座り込み、立てた膝を抱え込みながら尚も問いかける。
「なあ跡部」
「………黙ってろ」
 偏頭痛だと吐き捨てて跡部は再び机に向かった。
 再開されたタイピングの音は、早くて淀みない。
 それは生徒会の書類らしく、神尾が跡部の部屋に来てから「ちょっと待ってろ」と言われてもう四十分が経過している。
 退屈は退屈だったが、決してそればかりではなく、神尾は四つん這いで跡部に近寄っていった。
「なーあ?」
 手を伸ばし、くいっと跡部のシャツの裾を引っ張ると、相当凶悪な顔で跡部は神尾を振り返り、睨み下ろした。
「俺の言葉が理解出来ねえのかお前は」
「ちっさい声で喋ってるだろ」
 軽く小首を傾げるようにして応え、神尾は跡部のシャツをまた引っ張った。
「跡部。ちょっと休憩しろよ」
「てめえ…何のために人が、さっさとこいつを終わらせようとしてるのか判ってねえのか」
「でも俺心配だぜ。跡部」
「………………」
 跡部が何だか言葉に詰まったように黙ったので、神尾もぽろりと零れた自分の言葉に後々気恥ずかしい思いをすることになった。
「……あのさ、俺、マッサージとか出来るぜ」
 首とか頭とかを解してやると楽になる頭痛もあるのだと懸命に言い募ると、跡部が椅子に座ったまま、くるりと振り返ってきた。
「お前は頭痛なんかしねえだろうが」
「深司がよくなる」
「それでお前がマッサージしてやんのかよ」
「うまいって言われるぜ。俺」
「気にいらねえ」
「は? 何で?」
 パーン、と音だけはやけに大きく頭を叩かれ神尾は眉を顰めた。
「痛い!」
「………………」
 でもその後で。
 一度は叩いた神尾の頭を、撫でて、髪を梳き出した跡部の手は。
 優しすぎて涙ぐみたくなるくらい甘い仕草だった。
 神尾が上向いて目を閉じて。
 頭を撫でられ、髪を梳かれていると。
 何の小動物だと苦笑い交じりに跡部に言われた。
「下手なマッサージで俺の頭痛を悪化させやがったら……」
「………………」
 今夜ベッドの中で起こる事を暗示され、ひどく怖いような台詞を耳元で跡部に囁かれたが。
 不思議と感覚が麻痺して怖く聞こえず、神尾は、いいよとだけ言った。
「跡部。ここ寝て」
 自分の膝を軽く叩いて、神尾は跡部を呼んだ。
 跡部は椅子から立って神尾の首筋に食らいつくようなキスをしてから神尾の膝を枕にして横たわる。
「身体は横じゃなくて縦な。…うん。そう」
 正座から足だけ崩した体勢で、閉じて合わさった神尾の両腿の狭間に跡部の頭が納まるように促す。
 跡部の頭上は神尾の腹部にあたって。
 神尾は跡部のその頭に、近場にあったスポーツタオルをふわりと被せた。
 そして、タオル越しに、肩と、首と、頭を揉み込んでいく。
 神尾の膝を枕にして、跡部は両足を投げ出し上向きに寝ている。
「…………うまいなお前」
「……そうか?」
 ぽつりと跡部が言った。
 神尾は筋肉の硬さとは異なる跡部の身体の強張りに、何だか可哀想になってくる。
 それくらい凝り固まっていて。
 頭痛も確かに起こるだろうと気の毒になってくる。
 タオル越しに頭や額、髪の生え際や眼窩の周りを丁寧に指圧していくと、跡部が溜息をついたのが指先に伝わってくる。
「…跡部?」
「眠っちまいそうだからもういい」
「眠っていいよ…」
「……ふざけんな……何の為に書類を家に持ち帰ってまで…」
 神尾を家の前で延々待たせない為に、跡部は帰ってきたのだ。
 四十分間は、放っておかれた訳では決してない。
 せめて神尾の目の届く所で、少しでも早く、全てを片付けて、それから。
「…………………」
 全部を言葉にはしないけれど。
 跡部のそういう心情が、神尾にもちゃんと判っているから。
「……キスとかしたら眠るか?」
「それはお前だろ」
 抱かれた後の習慣というか、慣例というか。
 神尾の条件反射に似た習性を跡部に口にされて。
 かすかに赤くなった神尾はむっとしたまま、上体を屈めていった。
 タオルで跡部の目元を覆ってしまっているからちょうどいい。
 上唇に、下唇を。
 下唇に、上唇を。
 慣れない合わせ方で跡部にキスを落とす。
 何度も何度も何度も。
 唇を重ねる。

 跡部は眠ってしまった。

 キスをしながら跡部が眠るなんていう体験は初めてで。
 神尾もすこぶる気分が良かった。
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