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How did you feel at your first kiss?
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 とりたてて目立つところなんてない奴だと思っていたいから。
 跡部は神尾を直視したくなかった。
 見据えていると、余計な事ばかりが目に付いた。
 接触すればするほどもどかしく何かが気にかかった。
 神尾の言葉に、行動に、身体に、強く固執し始める自分自身を、いっそ呆れて。
 跡部は身の内に沸き上がる苛立ちは大概直接神尾ヘとぶつけた。
 責めるのではなく、詰る方法で。
 飢餓感を嘲笑で塗りこめて。
 今日も神尾が跡部の部屋の扉を開けるなり言った。
「あの女とストリートテニス場にいたんだってな」
 跡部の方から神尾を自宅に呼びつけるが、迎えに出た事は殆どなかった。
 何度そうしても神尾は遠慮がちに跡部の部屋の扉を開ける。
 最初の頃は想像も出来なかったような、顔で。
「……あの女? ストリートテニス場って…俺?」
 ぎこちなく室内に入って来ながら、そっとこちらを伺ってくるような神尾の声音や目線が。
 跡部の苛立ちを増幅させる。
「しらばっくれてもいいが」
「…ぇ…? なに…」
 制服のタイを粗雑に外しながら跡部は神尾に近づいた。
 尖った肩がびくりと竦むのを目の端に捉え、跡部は静かに目を細めた。
「度越して付け上がってやがると」
「……跡部…、…っ…?」
 神尾の額に手を当てて、そのまま閉じた扉に強くその身体を押し付けた跡部は、片手の中に顔の半分が隠せてしまってるのではないかというような神尾の小さな顔を見下ろして。
 その耳元に抑揚のない声を吹き込んだ。
「………、……」
 あからさまな言葉に神尾の身体が強張るのを感じる。
 構わず跡部は、神尾の耳の縁を、ゆっくりと噛んだ。
「…………っ…ぅ…、」
 か細い喉声に煽られた分、強く歯を立ててしまったらしく、神尾の震えが酷くなる。
 顔を背けて、激しく戦慄いている首筋に跡部が指先を滑らせると、泣き声交じりの声が上がった。
「ャ…、……ッ……」
 わざと露骨に身体中を撫で上げていくと、神尾は両手を突っ張らせて跡部を押しのけようとした。
 その都度きつく跡部は神尾の耳の縁を噛んだ。
「………っぁ…」
「………………」
 痛々しいように赤く染まった神尾の耳を跡部が舌で舐め上げると、神尾はその場に崩れ落ちた。
 座り込んでしまった神尾をそのまま床に押さえつけ、跡部は随分と即物的だと自嘲しながら神尾の服を剥ぎ取っていく。
 体重をかけて乗り上げ、膝で神尾の脇腹を固定する。
 こういう風に力で押さえつけられるのを神尾はひどく嫌がって。
 今も少し濡れた目が、物言いたげに跡部を睨み上げていた。
「なん…で……こう、…いう…!」
「お前が嫌がるから」
 判っていてやっているのだ。
 跡部は相手を屈服させる容赦のなさで、神尾を押さえつけ、身体を暴いていく。
 神尾は本気で嫌がって、跡部の下から逃れようと肢体をもがかせた。
 力づくでそれを阻み、跡部は快感にも屈服しろと唆すように、あからさまな口での愛撫を神尾の足を抱え込み繰り返した。
 高めの声が荒い呼吸に掠れて、涙に熔けて、跡部の神経を焼くような声になる。
「…やめ…、…ァ、っ、…っャ…ぁ…」
「嫌なんだろ? だからやるんだよ」
「…………ん…で……?…」
「本気で腹たってくるからそういうツラするな」
「………っ……ぅ…」
 唇を封じるようにきつく口付けながら、跡部は力で神尾の身体を拓いていった。
 握り締めて床に押し付けた神尾の手首も。
 口腔で苦しげに震えている舌も。
 縛り上げるように拘束したまま。
 こうやって。
 全てを無理矢理にでも束縛していても。
 神尾が逃げていくような喪失感は跡部の胸から消え失せない。
 圧倒的な力で奪っても。
 細やかで綺麗なものは指の隙間から零れていくようで。
 ほんの少しも、跡部に安堵感を与えはしないのだ。



 こんなことばかりを。
 繰り返して。



 熱っぽくなっている神尾の耳の縁に、跡部が指先で触れると。
 床に横たわっていた神尾は前髪を握り締めて肩を丸め、身体を小さく縮めた。
「………………」
 そんな神尾が本当に小さく見えて。
 跡部は壁に寄りかかり、神尾の耳に触れながら渇いた声で言った。
「こっちもお前も男だから」
「………………」
「本気で抵抗されたら俺だって力で好き勝手は出来ねえ」
「………………」
 言い訳で口にした訳ではなかった。
「それが頭にあるから本気で腹たった時は、俺は手加減なんてしねえよ」
 手加減なんかして、その隙に反撃をくらうかもしれねえし、と不遜に跡部は吐き捨てる。
「……なまじ逃げ足は速ぇしな」
「…………俺が…」
 泣きじゃくった挙句の神尾の声は掠れていてひどく小さかった。
「結局本気で、抵抗なんかしてないいって言いたいんだな……」
「………………」
 疲れきった声と言葉。
「俺が…もし本気で抵抗してたら、跡部だって無理矢理何とかなんて出来ないってことだよな……」
 跡部が触れている神尾の耳の熱からは想像難いほどの、小さく強張った声だった。
 跡部は思わず神尾から手を離す。
 震えがちな神尾の声は聞き様によっては自虐的な言葉を紡いだ。
「…そうだよ。俺は、嫌だって口では言ってても、本気で抵抗なんか……」
「止せ」
「跡部にされるんなら、どんなことだって、たぶん、」
「……止せって言ってんだろうが!」
 そんなことを言わせたい訳ではないのだ。
 ましてや、神尾にそんな事を言わせて。
 どんな顔を、させているのか。
 身体を起こした神尾を、強引に抱き竦めてそれを制そうとした跡部は。
 そうしてみれば実際。
 自分が、まるで縋りつくように。
 神尾に腕を伸ばし、その身体を抱き締めていることに気付いていた。
 両腕が、神尾を尚も締め付けるように、強くなる。
「泣くな」
「…………っ…」
「もうしない」
「…………いい」
 嗄れた声は、しかし確かにこの時、きっぱりと否定の意を唱えた。
「していい……」
 神尾の腕が跡部の背に回る。
「何してもいい」
「……………」
 跡部は息を飲む。
 神尾はぽつりと短い言葉を零すようにして続けた。
「この間、夜、杏ちゃんとストテニ場行ったけど」
「………………」
「それは橘さんと不二さんの試合を止める為だぜ…?」
「……橘と不二?」
「ん」
 喋るのもまだどこか辛そうな神尾の声は、跡部のささくれ立った部分をそっとならすように優しげだった。
 それだけだ、と神尾は跡部に告げた。
「跡部。それから」
「………………」
「本当に、何しても、いいよ。俺は平気」

 好きだよ跡部、と。

 神尾は、小さな、小さな声で言った。
「………………」
 初めての、神尾の言葉だった。


 聞いた跡部は、まるでどこかが痛いように、端正なその顔を歪めたけれど。
 その表情は神尾の肩口に埋められ、もう誰の目にも触れない。
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