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How did you feel at your first kiss?
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 生まれて初めてのインフルエンザだった。
 おおーっ!と思わず感動の声を上げた神尾は、かかりつけの医者に馬鹿者と頭を叩かれた。
 くれぐれも安静にしていなさいと言いつけられた言葉と薬を持って病院を出ると、途端に何だか足元がぐらぐらして、やけに目が回った。
 気持ち悪い、寒い、頭痛い、吐く、と何だか呪文のように繰り返しながら家に辿りついた所までだ。
 神尾の記憶があったのは。
 その後、神尾は水曜日までの丸三日間、寝込んでしまった。
 四日目にどうにか起き上がり、携帯の受信フォルダを埋めていたお見舞いメールに返信をうつところまで回復した。
 金曜日はもう学校に行ってもいいかなと思ったのだが、どうせすぐに週末なんだからここできちんと治しなさいときつく親に言われて、結局金曜日も学校を休んだ。
 土日に、両親が遠方の親戚の結婚式に呼ばれていたことは神尾も判っていたから、安心して行かせるためにはここは大人しくしていた方がいいぞと神尾自身が判断したのだ。
 姉はここぞとばかりに友達の家に泊まりに行くと言っていたし。
「………どうしよっかなー…」
 そんな金曜日。
 神尾は布団の中で、真剣に考え事をしていた。
 明日、実は神尾は跡部と会う約束をしている。
 体調を崩した当初は、それまでには風邪くらい絶対に治っているものだと思っていたのだが、さすがはインフルエンザだなあと神尾はしみじみと関心してしまう。
 結局ギリギリまで引きずってしまった。
 今はもう時々咳が出るくらいで。
 自分的には完治も同然と思っている神尾だが、万が一跡部にうつしでもしたらと思うと、どうにも躊躇いが色濃くなってしまう。
「…………やっぱ止めといた方がいいんだろうなー……」
 会いたいけど。
「………………しょうがないかー……」
 すごく会いたいけど。
「…………………」
 神尾は大きな溜息をついて、手探りで枕もとの携帯をつかんで、跡部にメールを打った。
 跡部は今授業中だろうとは思ったが、あまり遅くにキャンセルの連絡というのも怒られそうだし。
 そう思って、神尾は短いメールを送信する。
「…………………」
 考え事が決着して、断りのメールも入れて。
 そうしたら何だか無性に寂しくなってきた神尾は、布団の中に潜り込んだ。
 その時に、無意識に一緒に引き込んでいたいた携帯が、いきなりメールの受信音を響かせ始めた。
「うわっ………え、…あれ……跡部だ…」
 携帯を手にして、ぷはっと布団から顔を出した神尾は、サブディスプレイに映し出される跡部の名前に驚いた。
 授業中だよな?と部屋の時計を見ながらそのメールを読むと、内容はたったの一文だった。

『理由は』

「…………あ…書かなかったっけ…?」
 神尾は布団に再び横になって、メールを打つ。
 その後の返事もすぐにきた。
 やはりひどく短い文だったけれど。

『月曜からインフルエンザで学校休んでて、もう治ったけど一応うつしたら悪いから』
『熱は』
『もう下がった。咳が少しくらい。来週は駄目か?』
『家族はちゃんといるのか』

 質問に答えろよな、と神尾は少し不貞腐れた。
 会いたいのに。
 会えないから。
 次はいつって決めたいのに。

『ちゃんといた。だからもう治ってんだよ』
『判った』

 それで終わりだ。
 しつこいかなと思ったけど、もう一度だけ、明日の代わりにいつ会うかのメールを神尾は入れたのに。
 返事は返ってこなかった。
 怒ったり、不貞腐れたり、拗ねていたのも束の間。
 しまいに本当にどうしようもなく寂しくなってきてしまって、神尾は毛布を目元近くまで引き上げて、ぐずぐずと眠りについたのだった。


 翌日、朝早く出て行った両親の気配を、神尾は布団の中でまどろんだまま感じて。
 そのまま起きる事無く、うとうとと眠って。
 次にまたぼんやり覚醒しかけた時、今度は姉が出かけていく気配が玄関先でする。
 姉の声。
 出掛けて行った。
 これで、今日明日はもう一人だ。
「………………」
 嫌な夢みたいに、ふと思い出したのは、昨日の跡部とのメール。
 でもそれは夢ではなくて本当の話。
「………んだよ……ドタキャンだからって怒るなよな」
「誰も怒っちゃいねえよ」
「…………え……、………えええええ?」
 悪態に返事が返されて神尾は飛び起きた。
 部屋には、紛う事なき跡部の姿があった。
「な、…なん、…なんで、跡部が…っ」
「来たからだろ」
 起き上がんな、とバサッと顔に毛布を被せられる。
 そのまま肩を押されて横たわらされても、神尾の混乱は収まらない。
「なんで跡部…っ…!」
「騒ぐな。また熱でるぞ」
「…………、……」
 言われた言葉にでなく、頬に触れてくる跡部の手の感触に神尾は口を噤んだ。
 ひんやりと気持ちの良い手だった。
「………………」
 思わず目を瞑り、そして開き、跡部の手が動いて、また神尾は目を瞑る、そして開く。
 跡部は無表情で、神尾の頬に手のひらを宛がっていた。
「お前の姉貴に断っておいた。今日誰もいないんだろ」
「……なんで…?」
「お前が昨日のメールで今日は誰もいないって言っただろうが」
「………そんなの言ってない…」
「親はちゃんといたって自分で書いたのもう忘れてんのか」
「……………それは書いたけど……」
「つまり今日はいないって事だろうが意味として」
 なんでそうやって顔触るのかも聞いてみたかったが、何となく跡部は無意識でそうしてそうで、口に出して聞いたら止められてしまう気がして神尾は聞けなかった。
 その代わりにもうひとつのなんでを口にする。
「……なんで昨日、次はいつにするって俺が聞いたのスルーしたんだよ」
「だから次ってのは今日だろう」
「………会えないって言ったら、判ったって返事したじゃん」
「今日ここに誰もお前の家族がいないのが、判ったって言ったんだ」
「…………うー……」
 悔しくて唸っても。
 馬鹿と素っ気無く言われるだけ。
 上目に跡部を睨み上げた神尾は、視界を跡部の手に塞がれた。
「……、跡…」
「………………」
 唇を何かが掠った。
 なんで、という言葉は今度は飲み込んだ。
「…………うつるぜ?」
「うつせばいいだろ」
「………そんな簡単に言うなよ。言っとくけど、すっごいしんどいんだぞ…」
「……おとなしくしてろ」
「………………」
 低く告げられ、もう一度、今度は目元を塞がれないまま、あやすようなキスが短く二度。
 唇に重ねられる。
「………………」
 胸が甘ったるく詰まって、跡部がすごく優しいのが判って、神尾は泣くかもしれないと思った。
「飯は食わせてやる」
「………うん…」
 おとなしく頷いたらキスをくれた。
「退屈なら、話し相手でも読み聞かせでも、仕方ないからつきあってやる」
「…………うん…」
 もう一度のそのキスの後、まず何したいと跡部が囁くから、神尾はキスしたいと口にした。
 返事より先に与えられて、神尾は目を閉じた。
 唇を開いたのは神尾からで、入ってきた跡部の舌は長く神尾の口腔にいて、ずっと優しかった。
「……………何時までいてくれる?」
 それだけは聞いておこうと思うくらい、キスは心地良かった。
「泊めろ」
 そんな跡部の返事が嬉しくて。
 神尾は跡部にキスされたまま、跡部と重ねた唇の下で笑った。
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