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How did you feel at your first kiss?
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 校内の渡り廊下を歩く海堂は、通路の窓ガラスの鳴る音に足を止めた。
 音のした方向に視線を向けると、結露に僅かに煙った窓越しに、見知った姿を見つけて。
 目を見開き、少し考え、歩み寄る。
 中庭側から、中指の第二関節で窓ガラスを軽くノックしてきた相手は上級生だ。
 海堂が窓を開けようと手をかけると、その相手、乾は唇を笑みの形に引き上げて首を左右に振った。
「………………」
 制された海堂が戸惑って眉根を寄せると、乾は人差し指で窓ガラスに文字を書いてきた。
『元気?』
「………………」
 海堂の方から見てそう読めるのだから、乾は文字を逆向きで書いている筈なのに、その所作は滑らかだった。
 わざわざ文字にして聞かれる意味が判らず、海堂は怪訝に窓越しの乾を見やった。
 海堂が無言で再度窓枠に手を伸ばすと、乾は笑って更に手早く文字を綴った。
『寒いからあけない』
「………………」
 乾は外にいる訳だから、どうやら海堂を気遣っての事らしい。
 別に寒いくらいが何だと海堂は内心呆れたが、乾が最初に書いた『元気?』の文字を丸で囲って僅かに首を傾けてくる。
「………ッス…」
 聞こえないと判っていても小さく声にしてしまいながら、海堂は頷いた。
 内側からの膜のような窓の結露と違い、外側から乾が指でなぞる文字は、あまりはっきりとは残らない。
 耳で聞く音の余韻のように、目の前の文字が消えていく。
『それならよかった』
『今日部活ないよな?』
『これから雨降るらしい。カサ持ってきてる?』
 次々に書かれていく文字に、頷いたり、首を振ったりしながら。
 海堂はもどかしさを覚えてしまう。
 別に答えに困るような事は聞かれていない。
 僅かな所作だけで意思は伝えられる。
 でも、もどかしい。
 ひどく、もどかしいのだ。
「………………」
 言葉のうまくない、口の重い自分に。
 こんなにも話したいと思わせる乾が、海堂には不思議だった。
 端的な意思表示には、こんな風に、言葉がいらない事もあるけれど。
 それでも言葉で伝えたい、海堂にとって乾はいつでもそういう相手だった。
『一緒に帰りたいけど、予定あるか』
「……、………」
 そして海堂は、その文字に、問いかけに、憮然とした。
 漢字を、よくもそんな早いスピードで逆向きから書けるものだと驚くのが半分。
 文字を、あまりにも率直な言葉で綴られて気恥ずかしいのが半分。
「………………」
 リアクションを示さない海堂に、乾は。
 返事、とでも言うように。
 立てた人差し指で、ちょんちょんと窓ガラスを指差してくる。
 返事を書けと、催促されて。
 頼むから、と海堂は今更のように羞恥にかられて歯噛みした。
 いったい。
 何をやっているのだ自分達は。
 じわじわと侵食してくる羞恥心に居たたまれなくなる。
 窓を開けて、顔を合わせて、言葉にして。
 そうすれば別に、たいしたことでもなんでもない筈だ。
 それが、こんな風なやりとりにしてしまうと。
 そう気付いてしまえばあまりにも。
「………………」
 海堂が顔を俯かせ、後ろ髪を握り締めて。
 もう強行に窓を開けてしまおうかと考えると、乾はそれを察したようなタイミングで。
 尚も楽しそうに笑みを深め、まるで、しょうがないなあとでも言いたげに素早く人差し指を動かした。
『YES , NO』
「………………」
『どっちかに丸つけて?』
 笑う乾は、海堂をからかっているのではない。
 単に、海堂からこの状況下での文字での返事が欲しくて堪らないだけなのだ。
 海堂にもそれは判った。
 窓ガラスを間に隔てて、声に出す会話の出来ない状態で、意思のやりとりがしたいだけ。
 愛しいと気持ちの満ちた目で見つめられ、微笑まれては、海堂も意地を張るのと羞恥に打ち勝つとのではどちらが得策か迷う余裕も失って。
 殆ど無意識に、それでいて震えるようなぎこちない指で、丸を。
 外側から乾が書いたYESの文字を、海堂は内側から、丸で囲んだ。



 とても、声が、聞きたい。
 そう、強く、思ったまま。
 冷たい窓ガラスをなぞった筈の人差し指の先が、いつまでもいつまでも。
 熱がたまったようになって、温かい。
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