How did you feel at your first kiss?
大切なものは両手で扱うだろうと笑って、乾は海堂の身体に触れる時は必ず両手を差し伸べてくる。
海堂の両肩を大きな手に包み、背の高い男なので、抱きしめるにしろキスをするにしろ乾は身体を大きく屈めるようにして海堂に近づいてくる。
「………………」
乾がやってくるまでの僅かであり曖昧なその時間が、海堂にとって苦しいのは、こうしていることが恥ずかしかったり怖かったり不安になったりするからで、でも乾の唇を自分の同じ箇所で受けとれば、その瞬間に海堂の困惑は全て落ち着く。
海堂の中で行き場のなかったものが、正しく心地よい場所に、すっとおさまる清涼感は、乾のキスから始まっていく。
初めてキスをした時、言葉が追いつかなくて、いつの間にか触れ合わせていた唇は。
今ではそれ一つで、乾のことも海堂のことも甘く卑猥なものの塊にしてしまう。
海堂は、全てを相手に任せてされるキスというものを覚えてしまった。
丁寧に重なって、塞がれて。
長くそうされるのも、軽く短く繰り返されるのも。
乾が海堂の良いようにと、誂えてくれているかのように気持よかった。
二人きりになった時には、キスしないではいられなくなってしまった。
自分達の間に漂う煮詰まった甘さが、もう流せないほどになっている。
乾は言葉を惜しまなかったから、何故抱きしめたいのか、キスしたいのか、海堂を抱きたいのか、教えてくれて。
感情を表す言葉を持っている乾が海堂には羨ましかった。
海堂にはいつも飢餓感じみたものがあるだけで、乾へと、どういう言葉でそれを向けていいのか判らなかった。
判らないのが自分だけかと思うと悔しい。
だから海堂は、理屈でなく、乾の方から余裕のなくなってくるこういうキスが好きだった。
乾の両手が海堂の頬や背中や腰を抱きこみ、どんどんむさぼられるように深まるキスに海堂の足元が覚束なくなっていく。
乾の部屋に入るなりはじめたキスは、今ではもう聞いたこともないような濡れた音をたてている。
合わせた唇の狭間から、あふれてくる音や液体が、まず思考を切り崩して、どろどろになって、意識から先に、二人が交ざるための準備を始めていく。
「………ふ……、…ぁ」
密着しきっていた粘膜が息継ぎのために急いて離れ、肩で息をしながら互いの舌と舌の先が触れる。
ただそこだけ、微かな接触をもった箇所から、痺れるように沁みてくるものに海堂の喉が震えて、そうなって初めて乾は深く首を傾けて噛み合わせをずらし、海堂の口腔を直に探ってきた。
「舌の先って、甘みを感じる場所だって知ってる?」
あんまり近くで囁かれて、乾の声は海堂の頭の中を攪拌するように響いた。
返事が出来ない。
「ここのあたりで苦味を感じて………」
「…………、……ん……」
「ここが酸味を感じる所」
「……ぅ………」
最初に舌の根元を。
次に舌の脇を。
乾の舌先に辿られて、海堂は乾の両手に肩を抱かれたまま、その腕の中でがくりと足場を崩した。
「………ぅ…………」
それでも支えられている。
二本の腕に、しっかりと。
「……座ろうか」
「……………………」
乾の胸元に押し当てられるようにしながら、海堂は乾の部屋のベッドに座らされた。
横に並ぶ乾に半ばもたれかかるようになっている海堂の髪を乾は繰り返し撫でながら小さなキスをこめかみに埋めてくる。
「ねえ海堂……」
「……………………」
「…今日さ」
耳元に吹き込むように、低い乾の声がする。
海堂は細い喉声を上げてかたく目を閉ざした。
声を聞かされるだけで駄目になるのが判って怖い。
「………、てみようか」
「…………な…?」
頭は乾の言った言葉を理解しようとする。 しかし身体はついていかなくて、海堂は痺れたように身動きがとれなくなってひどく息苦しくなった。
返事はなくてもよかったのか、乾の指先が制服の上から海堂の足の狭間を撫でる。
そこの熱っぽさが自分自身でもいやというほど判った海堂は、次に乾の手のひらにそこを掴み込まれて、ゆっくり加わってくる甘ったるい力にうつむいて歯を食いしばった。
「…………っ…く…」
宥めて労わるように乾の手は動くのに、海堂の身体は熱を帯びて変化していく。
海堂が声をかみきれなくなってくると、ますます容赦がなくなった。
「さて……外すよ」
「…………意味わかん…ね……、…」
「いつもこれしたままだって、気づいてなかったか?」
笑って、乾は彼がいつもしている鉛入りのリストバンドを外し、放り投げた。
リストバンドはカーペットの床に落ちて、鈍い音が響く。
ひどく重みのあるものが落ちた音だ。
無意識に海堂の身体が震えた。
「逃げないの」
「……、……っ……」
「海堂」
「ャ………、…ッ………め………」
「早く…動くだけだろ…?」
「……ぅ……、…」
「痛くない」
「っん……、ん…ー…、……っ…ゃっぁ」
痛くて怖い訳じゃないのだ。
ひっきりなしで止め処もなくて、触れられて、動かされて、濃厚なものをいつもと違ってあっさりとあちこちから引き出されるのが怖いのだ。
「……、…先輩…、……っ…」
「俺こういうときに我慢しろなんてこと教えてないよね。海堂」
海堂のしていることを咎めるように、乾は抑揚のない声を出す。
乾の指が締め付けるように海堂に絡んできて、海堂の踵が震えながら床を蹴った。
「………ほら、また我慢してる」
「…っゃ…」
「………海堂……」
「そこ……で…喋………、な……っ」
「…ん? 声もいい?」
リストバンドを外した乾の手が複雑に淫らにひっきりなしに動いて。
耳を舐められながら囁かれて。
海堂は自分で濡れていく、形を変えていく、そういう自分が乾の目にどう映っているのかだけが不安だった。
「海堂…」
「も……、…ヤ……っ…離……、っ」
「……零さないから。このまま大丈夫だよ」
からかうのではなく笑う声が耳に届いて、無意識に乾の胸元に顔を伏せて息を詰めた海堂を、長い腕が強く抱き込んでくる。
「………ッ…ァ、っ…………く…」
全てを相手に任せてされるキスだけでなく、最後は相手にきつく抱きしめられながらいきつく事を覚えてしまった海堂は、小さな終わりを迎えて声を詰まらせた。
「…、っ…ぅ」
安堵と虚脱感でぐったりと乾の腕の中に落ちる。
乾が軽く身じろいでいるのが伝わってくる。
何をしているのかは必至で考えないようにしている海堂は、乾に名前を呼ばれて気だるく顔を上げた。
「…………………」
自分のことは見られたくはないけれど、相手のことは見たいという、矛盾を抱えての海堂の眼差しは、普段の数倍やわらかかった。
あやされるように、乾に抱き取られたまま背中を擦られるのも、相当恥ずかしいのに止めてほしくはないという矛盾も呼ぶ。
「次から、外してしような」
「………嫌だ」
「どうして?」
「……………見てりゃ判ったろ……っ…!」
関節や筋肉を傷めない範囲で負荷をかけているリストバンドを、乾は入浴の時以外外さない。
それが当たり前のことだったはずなのに、何でよりにもよってこんな事の最中に、乾が外してしようなんて思い立ったのかと。
海堂の目つきはだんだんきつくなる。
あるとないとで何が違うか、判ってしまっただけに余計だ。
「じゃ、…時々でいいから」
「返事しろってんですか」
な?と甘えるように請えば、それが通る確立が高い事を承知で乾は言っている。
そう思っていた海堂だったが、実はどうも乾は、本質的に甘えたがりなところがある。
確立を計算してのことではなくて、これが地なのかもしれない。
「海堂。時々ならいいだろ?」
「……………………」
「うーん……判ったよ。じゃあ海堂が嫌なときは死ぬ気で抵抗して、されてもいいかって時は許してくれ……これでどう?」
妥協してくれよと軽くキスされた。
「…………俺が…」
「うん?」
「その代わり。俺が」
ちらりと乾を見やって、海堂は低く交換条件をつきつける。
「…………錘のプレートの数、倍にしろって言った日は……あんた、倍嵌めろよな」
「………そうくるか海堂」
「嫌ならいい」
「嫌じゃない。了解。取引成立」
契約印みたいなキスをされて。
海堂は抱きしめられながら、乾のベッドに押し倒された。
乾の機嫌が良いのが判るから、海堂は少しばかり癪で、溜息と一緒に呟いた。
「………腰用のウエイトとかねえのかよ…」
「開発してもいいけど、そんなものがあったらウエイト外してした日には、海堂、泣いて物凄い事になるんじゃないの」
「…………ッ……、……!…」
乾の忍び笑いは海堂の唇で。
海堂の怒声は乾の唇で。
溶けた。
意図的に、手足に嵌めた重い錘が、その継続で飛躍的な力をくれた。
無意識で、意識に絡めた思う心が、その継続で特別な人をつかまえた。
海堂の両肩を大きな手に包み、背の高い男なので、抱きしめるにしろキスをするにしろ乾は身体を大きく屈めるようにして海堂に近づいてくる。
「………………」
乾がやってくるまでの僅かであり曖昧なその時間が、海堂にとって苦しいのは、こうしていることが恥ずかしかったり怖かったり不安になったりするからで、でも乾の唇を自分の同じ箇所で受けとれば、その瞬間に海堂の困惑は全て落ち着く。
海堂の中で行き場のなかったものが、正しく心地よい場所に、すっとおさまる清涼感は、乾のキスから始まっていく。
初めてキスをした時、言葉が追いつかなくて、いつの間にか触れ合わせていた唇は。
今ではそれ一つで、乾のことも海堂のことも甘く卑猥なものの塊にしてしまう。
海堂は、全てを相手に任せてされるキスというものを覚えてしまった。
丁寧に重なって、塞がれて。
長くそうされるのも、軽く短く繰り返されるのも。
乾が海堂の良いようにと、誂えてくれているかのように気持よかった。
二人きりになった時には、キスしないではいられなくなってしまった。
自分達の間に漂う煮詰まった甘さが、もう流せないほどになっている。
乾は言葉を惜しまなかったから、何故抱きしめたいのか、キスしたいのか、海堂を抱きたいのか、教えてくれて。
感情を表す言葉を持っている乾が海堂には羨ましかった。
海堂にはいつも飢餓感じみたものがあるだけで、乾へと、どういう言葉でそれを向けていいのか判らなかった。
判らないのが自分だけかと思うと悔しい。
だから海堂は、理屈でなく、乾の方から余裕のなくなってくるこういうキスが好きだった。
乾の両手が海堂の頬や背中や腰を抱きこみ、どんどんむさぼられるように深まるキスに海堂の足元が覚束なくなっていく。
乾の部屋に入るなりはじめたキスは、今ではもう聞いたこともないような濡れた音をたてている。
合わせた唇の狭間から、あふれてくる音や液体が、まず思考を切り崩して、どろどろになって、意識から先に、二人が交ざるための準備を始めていく。
「………ふ……、…ぁ」
密着しきっていた粘膜が息継ぎのために急いて離れ、肩で息をしながら互いの舌と舌の先が触れる。
ただそこだけ、微かな接触をもった箇所から、痺れるように沁みてくるものに海堂の喉が震えて、そうなって初めて乾は深く首を傾けて噛み合わせをずらし、海堂の口腔を直に探ってきた。
「舌の先って、甘みを感じる場所だって知ってる?」
あんまり近くで囁かれて、乾の声は海堂の頭の中を攪拌するように響いた。
返事が出来ない。
「ここのあたりで苦味を感じて………」
「…………、……ん……」
「ここが酸味を感じる所」
「……ぅ………」
最初に舌の根元を。
次に舌の脇を。
乾の舌先に辿られて、海堂は乾の両手に肩を抱かれたまま、その腕の中でがくりと足場を崩した。
「………ぅ…………」
それでも支えられている。
二本の腕に、しっかりと。
「……座ろうか」
「……………………」
乾の胸元に押し当てられるようにしながら、海堂は乾の部屋のベッドに座らされた。
横に並ぶ乾に半ばもたれかかるようになっている海堂の髪を乾は繰り返し撫でながら小さなキスをこめかみに埋めてくる。
「ねえ海堂……」
「……………………」
「…今日さ」
耳元に吹き込むように、低い乾の声がする。
海堂は細い喉声を上げてかたく目を閉ざした。
声を聞かされるだけで駄目になるのが判って怖い。
「………、てみようか」
「…………な…?」
頭は乾の言った言葉を理解しようとする。 しかし身体はついていかなくて、海堂は痺れたように身動きがとれなくなってひどく息苦しくなった。
返事はなくてもよかったのか、乾の指先が制服の上から海堂の足の狭間を撫でる。
そこの熱っぽさが自分自身でもいやというほど判った海堂は、次に乾の手のひらにそこを掴み込まれて、ゆっくり加わってくる甘ったるい力にうつむいて歯を食いしばった。
「…………っ…く…」
宥めて労わるように乾の手は動くのに、海堂の身体は熱を帯びて変化していく。
海堂が声をかみきれなくなってくると、ますます容赦がなくなった。
「さて……外すよ」
「…………意味わかん…ね……、…」
「いつもこれしたままだって、気づいてなかったか?」
笑って、乾は彼がいつもしている鉛入りのリストバンドを外し、放り投げた。
リストバンドはカーペットの床に落ちて、鈍い音が響く。
ひどく重みのあるものが落ちた音だ。
無意識に海堂の身体が震えた。
「逃げないの」
「……、……っ……」
「海堂」
「ャ………、…ッ………め………」
「早く…動くだけだろ…?」
「……ぅ……、…」
「痛くない」
「っん……、ん…ー…、……っ…ゃっぁ」
痛くて怖い訳じゃないのだ。
ひっきりなしで止め処もなくて、触れられて、動かされて、濃厚なものをいつもと違ってあっさりとあちこちから引き出されるのが怖いのだ。
「……、…先輩…、……っ…」
「俺こういうときに我慢しろなんてこと教えてないよね。海堂」
海堂のしていることを咎めるように、乾は抑揚のない声を出す。
乾の指が締め付けるように海堂に絡んできて、海堂の踵が震えながら床を蹴った。
「………ほら、また我慢してる」
「…っゃ…」
「………海堂……」
「そこ……で…喋………、な……っ」
「…ん? 声もいい?」
リストバンドを外した乾の手が複雑に淫らにひっきりなしに動いて。
耳を舐められながら囁かれて。
海堂は自分で濡れていく、形を変えていく、そういう自分が乾の目にどう映っているのかだけが不安だった。
「海堂…」
「も……、…ヤ……っ…離……、っ」
「……零さないから。このまま大丈夫だよ」
からかうのではなく笑う声が耳に届いて、無意識に乾の胸元に顔を伏せて息を詰めた海堂を、長い腕が強く抱き込んでくる。
「………ッ…ァ、っ…………く…」
全てを相手に任せてされるキスだけでなく、最後は相手にきつく抱きしめられながらいきつく事を覚えてしまった海堂は、小さな終わりを迎えて声を詰まらせた。
「…、っ…ぅ」
安堵と虚脱感でぐったりと乾の腕の中に落ちる。
乾が軽く身じろいでいるのが伝わってくる。
何をしているのかは必至で考えないようにしている海堂は、乾に名前を呼ばれて気だるく顔を上げた。
「…………………」
自分のことは見られたくはないけれど、相手のことは見たいという、矛盾を抱えての海堂の眼差しは、普段の数倍やわらかかった。
あやされるように、乾に抱き取られたまま背中を擦られるのも、相当恥ずかしいのに止めてほしくはないという矛盾も呼ぶ。
「次から、外してしような」
「………嫌だ」
「どうして?」
「……………見てりゃ判ったろ……っ…!」
関節や筋肉を傷めない範囲で負荷をかけているリストバンドを、乾は入浴の時以外外さない。
それが当たり前のことだったはずなのに、何でよりにもよってこんな事の最中に、乾が外してしようなんて思い立ったのかと。
海堂の目つきはだんだんきつくなる。
あるとないとで何が違うか、判ってしまっただけに余計だ。
「じゃ、…時々でいいから」
「返事しろってんですか」
な?と甘えるように請えば、それが通る確立が高い事を承知で乾は言っている。
そう思っていた海堂だったが、実はどうも乾は、本質的に甘えたがりなところがある。
確立を計算してのことではなくて、これが地なのかもしれない。
「海堂。時々ならいいだろ?」
「……………………」
「うーん……判ったよ。じゃあ海堂が嫌なときは死ぬ気で抵抗して、されてもいいかって時は許してくれ……これでどう?」
妥協してくれよと軽くキスされた。
「…………俺が…」
「うん?」
「その代わり。俺が」
ちらりと乾を見やって、海堂は低く交換条件をつきつける。
「…………錘のプレートの数、倍にしろって言った日は……あんた、倍嵌めろよな」
「………そうくるか海堂」
「嫌ならいい」
「嫌じゃない。了解。取引成立」
契約印みたいなキスをされて。
海堂は抱きしめられながら、乾のベッドに押し倒された。
乾の機嫌が良いのが判るから、海堂は少しばかり癪で、溜息と一緒に呟いた。
「………腰用のウエイトとかねえのかよ…」
「開発してもいいけど、そんなものがあったらウエイト外してした日には、海堂、泣いて物凄い事になるんじゃないの」
「…………ッ……、……!…」
乾の忍び笑いは海堂の唇で。
海堂の怒声は乾の唇で。
溶けた。
意図的に、手足に嵌めた重い錘が、その継続で飛躍的な力をくれた。
無意識で、意識に絡めた思う心が、その継続で特別な人をつかまえた。
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