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How did you feel at your first kiss?
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本当は、乾がへばっていた筈だった。
 その筈だったのに。


 連日連夜続く雨と湿気に完全に負けて、乾は日常生活すら辛そうにしている。
 いつになったら梅雨明けするんだと力なく言いながら、乾は近頃もっぱら気象情報のデータ収集に忙しい。
 案外と、乾には体力不足の感がある。
 自分よりも遥かに高い上背、重いウェイト。
 それでいてと海堂はその事に最近気づいたばかりだ。
 だらしねえと言い捨てるのは簡単だったが、些か気の毒にも見えてきた乾の不調に、海堂が少しばかり同情を見せ始めた折、乾から週末泊まりにこないかと誘われた。
 乾の両親は多忙で、またこの週末も揃って出張になったとのことで、海堂は少し考え、頷くだけの同意を示した。
 乾の家に泊まりに行く時は必ず、母親に料理の手土産を持たされる。
 最初は料理なんて失礼かしらと言っていた海堂の母親も、当の乾に惜しみない絶賛をされて、今となっては張り切るばかりだ。
 乾のこの様子だと食事もあまりきちんととっていないのではないかと思った海堂は、そのあたりの事を母に告げ、何か用意してもらおうと考えた。
 海堂が真剣にそんなことを考えるくらいに、乾は相当、ばてていたのだ。
 まさか乾の家に行って、それが形勢逆転してしまうなどとは考えてもみなかった海堂であった。



 
「………甘くみてただろう海堂」
 シャワーの下、乾は濡れながら笑んで言った。
 海堂も同じように濡れながら。
 自分の腰を抱く乾を、泣いた後の目で睨みつける。
「……………詐欺だ」
「俺がこの天気に相当くたばってたから、何にもされないと思ってた」
 おかしそうに喉の奥で響かせる笑い声。
 機嫌も元気もいい乾に、海堂はムッとする。
 自分は足元も覚束なくなって、乾に支えられながらシャワーを浴びる始末だというのに。
「海堂」
「…………何すか…」
「海堂って、体温いくつ?」
 首筋の脈を探すように乾の唇が触れてくる。
 小さく息を飲んで、海堂は殊更低くした声で呟いた。
「………37度くらいじゃ…」
「高いね。触るといつも熱いから、それくらいあるかなとは思ってたけど」
 音を立てて首の血管の上を吸われる。
 思わずしゃがみこみそうになった海堂は、乾の肩に咄嗟に手を伸ばしてそれを堪えた。
「…………、……っ……」
「外の気温はそこまで高くないのに……何でだろうな。37度の海堂の中にはずっといたいくらい気持良いのに、たかだか30度の温度には、どうしようもなくばてるんだから」
「……っぁ……」
 腰に宛がわれていた大きな手のひらが卑猥に動いて海堂は歯を食いしばる。
 苦しくて、どうしようもなくなる。
 乱れてくる息も、殺さなければいけない声も、立っていなければいけない事も。
「先、輩…、……」
 壁際に押し付けられて、キスされる。
 舌が触れ合うたび、絡まるたび、身体が震えた。
「…っ……ん」
 よほど自分の身体が熱くなっているのかと海堂が思った訳は、降り注ぐシャワーが急に冷たく感じられたからだった。
 キスが止み、見上げた乾はいつの間にか片手で海堂の腰を抱きこんでいて、空いた手は浴室内に設置された温度設定のパネルの上にあった。
 シャワーの湯もまた。
「これも37度」
「……………………」
「海堂の体温だ。………こっちは随分低く感じるな」
 同じ筈なのになと囁く乾を見上げ、海堂はぬるいシャワーで濡れていく。
 またキスが始まって、また力の抜けていく自分に。
 海堂は少し怖い感じを覚える。
 緊張は緩和していく。
 緩和しすぎて、立っている事すらも困難になっていくのが怖い。
「…………何であんた…急にそんな元気に……」
「なるよ。当然ね」
 深いキス。
「………吸い取られてる……みたいなんですが……」
 海堂が、きつく睨んで言えば、乾は楽しげに笑った。
「……少し分けて。体力不足なんだ。海堂に比べて俺は」
「そんな事は知ってる。………だいたいこれ、少しどころじゃ、…ね……っ……ぁ…」
 角度もついたキスに塞がれ、乾の手がくまなく海堂の身体を辿り出す。



 だから今度は、海堂が。
 乾の腕の中でだけ、熱気にやられたように何もかもが出来なくなって。
 嫌ではないが文句の一つも言いたくなって。
 乾の舌を加減しながら噛んでいく。




 甘く執拗な長いキスで、それこそ嫌と言うほど仕返しされた。
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