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How did you feel at your first kiss?
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 最近、夜暗くなるのが早いなあと思うようになった。
 季節が変わっていっているという事は判っている。
 でも、一日の時間は毎日二十四時間で同じ筈なのに。
 何だかこれでは一緒にいられる時間だけが短くなったような気がしてならない。
 神尾は窓辺に手をついて、日の暮れた空をぼんやり見上げて考えた。
 言いたくない言葉を言った後は気が重くなる。
 そろそろ帰ると告げた神尾に。
 ああ、と頷いた後、何かを考える顔をして。
 跡部は、ちょっと待てと言いおいて、この部屋、彼の自室を出ていった。
「神尾」
 戻ってきた跡部の手にはマフラーがあった。
 名前を呼ばれて振り返った神尾に、跡部はその手を軽く持ち上げて、顎も少し上げて、目を細めた。
「来いよ」
 貸してやる、結んでやる、と言った跡部は、神尾がすぐに反応しないのを見て取ると、顎で促してきた。
「可愛くしてやるよ」
 来い、と尊大に笑みを浮かべられて言われた言葉に神尾は堪らず赤くなった。
「…、可愛く、ってなんだよ…っ」
「マフラーのひとつやふたつで、てめえの顔が変わる訳もねえけどな」
 平然と言い捨てた跡部だったが、神尾の元まで近づいてくると、折り曲げた指の関節で神尾の首筋を軽く逆撫でした。
「………っ、…」
「そろそろ制服の上にもう一枚着てくるか、マフラー巻いてくるかして来い」
 ほっせぇ首、と呟いて。
 肩を竦め、目を細める跡部を。
 恨めしく上目に睨んだ神尾だったが、跡部はゆったりと唇の端を引き上げて癖のある笑みを浮かべて素知らぬ態度だ。
 あからさまに神尾をからかっているような、人をくった目をしているくせに。
 跡部の手つきは、丁寧だった。
 見るからに上質そうなマフラーを、ふわりと神尾の首に巻きつける。
 やわらかい。
 かるい。
 そしてあたたかい。
「………………」
 なめらかな手の動きでマフラーを神尾の首に二巻きし、喉の下辺りで所作のシンプルさには不似合いな程、凝った結びを手際よく作る。
 跡部の手つきを見下ろしていた神尾は、ふと跡部が屈みこんできたのに気づいて顔を上げた。
「………ぇ……」
 唇をやわらかく塞がれる。
 神尾は小さく息をのむ。
 濡れた微かな音。
 ゆっくりと跡部の唇は離れていった。
「………………」
 思わず後を追うように、神尾の目線も意識も跡部についていってしまいそうになった。
「………………」
「マフラーのあるなし関係ねえよ。お前は」
「……あ…と……べ…?」
「どうしたって可愛くてしょうがねえ」
 いきなり言われた。
 腹立つ、なんて憮然とした言葉も言われた。
 神尾は息が詰まってしまった。
 胸も詰まってしまった。
 この男は俺の事を殺す気だ。
 きっと。
 そんな事を思って固まった。
 ありえないだろ、可愛いとか、ありえないだろ。
「………何硬直してやがるんだ。てめえは」
「え、……」
 溜息を吐き出した跡部が、指先まで完璧に整っている手で神尾の片頬を包んだ。
 左の頬を跡部の片手に覆われながら、神尾はまた、跡部からの口付けを受ける。
 キスというのは唇でするのだな、という。
 当たり前の事を教え込まされるように、跡部は神尾の唇を繰り返し繰り返し塞いだ。
「…ぁ、……跡部…、…」
「………………」
「…、んっ……、…、っ…」
 軽く啄ばまれて、きつく塞がれて。
 微かに掠られて、ふかく奪われて。
 もう帰るのに、どうしてそんなにいろいろのキスをするのだと、神尾は自分の頬を支えている跡部の腕に指先を縋らせる。
 キスが漸く止まって初めて。
 神尾は、泣き言のように言った。
「も…、…マフラーいらない…」
「……ああ?」
 熱い、と涙目で跡部を睨みつけると。
 珍しく跡部が狼狽したような顔をした。
「そりゃ………まあ、よかったんじゃねえの? 帰り道寒くねえだろ」
 すぐに無理矢理、いつもの皮肉気な顔をしたけれど。
 あまり長くは持たなかったようで。
 負けてやる、と結局呻いて跡部は、覆いかぶさるようにして神尾を抱きしめてきた。
「………車を出させる」
「………………」
「もう少しいろ」
 そんなの。
 神尾は、嬉しいだけだ。
 ただ、嬉しいだけだ。
 ありえないだろ、嬉しいとか、ありえないだろ。
 跡部に抱きしめられながら、神尾は息も絶え絶えになって、そう思った。
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