How did you feel at your first kiss?
帰宅時に家から車を呼んで、跡部は今朝から自分の元に集まったバースデイプレゼントの山を全て運ばせた。
そうやって。
身軽になったと思ったのはほんの一時。
今度は、学校を出たら出たで。
その瞬間から跡部の元へと再び集まり出すプレゼントの数々に、跡部慣れしきっている氷帝テニス部の面々ですらも呆れたり感心したりと実に忙しい。
「………さすがですね…跡部さん」
ギフトボックスが詰め込まれていく紙袋を両手に下げて鳳は生真面目に感心している。
樺地は鞄があるから、そっちは俺が持つよと言い出した人の良い鳳の少し前を歩きながら、機嫌が悪いのは宍戸だ。
「下級生を顎で使ってんじゃねえよ。跡部」
「ああ? 鳳が自分で持つって言ったんだろうが。お前こそどれだけ鳳に過保護なんだ? 宍戸よ」
「うるせえ!」
人の悪い笑みを浮かべる跡部と、不機嫌さが増す宍戸の小競り合いはいつもの事で。
鳳は困ったように笑い、樺地は困ったように沈黙して、上級生の後を歩いていく。
眠たくて眠たくてどうしようもなくなって、ふらふらよろよろ辛うじてといった状態で歩いているジローにかかりきりなのは日吉と滝で。
最後尾にいる向日はそんな三人を指差して笑っている。
「なあなあ侑士。ジローの奴、おむつが重い、歩き始めの幼児みたいじゃね? おもしれー!」
「それで、あっちがおとんで、そっちがおかん?」
「そうそうそう!」
日吉と滝は、身体を半分に折る勢いで爆笑する向日ではなく、悪ノリさせる忍足を責める様に、ジローを挟んで振り返り、睨みつけてくる。
そんな事など眼中にない様子で飄々と向日を増長させるような相槌ばかりをうっていた忍足が、ふいに低い声を響かせて言った。
「跡部」
「何だ」
足を止めた最前部と最後部。
目線を合わせた二人の狭間で他のメンバーも思わず立ち止まる。
「パンダや」
「………ああ?」
「パンダが走ってくる」
忍足が指で指し示した先は、彼等が歩く歩道脇の道路の向こう側。
「……………パンダ……」
「…………………ほんとにパンダだ……」
パンダー、イェーイ、と突如目を覚ましてハイテンションになったジローを除く全ての人間が、唖然となって見つめた先。
きぐるみパンダがものすごいスピードで道路を渡ってこちら側に向かって走ってくる。
次の瞬間、ギャー!と叫んだのは向日で、何故かといえば勢いあまったパンダが躓いて、そのままのスピードでこちら側にゴロゴロと転がってきたからだ。
阿鼻叫喚の中、お前らどけ!と物凄い大声を出したのは跡部で、言われなくても!と言葉にならないままにその場から飛びのいたのが全員だ。
白と黒とのパンダは、何故か一人避けなかった跡部にぶつかって、でんぐり返って漸く止まった。
歩道に足を開いて座り込んだ態勢で、ごろんと被り物の頭が落ちる。
身体だけがパンダになったその物体。
パンダのなかみは満面の笑顔でパンダ手を上げて言った。
「よう、跡部!」
不動峰中の二年、神尾アキラがパンダのなかみだ。
正真正銘その場に腰を抜かしてしまった氷帝学園テニス部の面々の中で、流石は元カリスマ部長、跡部景吾である。
「…………何の真似だこれは」
「パンダだよ! 見てわかれよう。可愛いだろう? パンダ」
「可愛かねえよ。馬鹿」
「馬鹿って言った! 可愛いじゃんかよ!」
「……んな訳わかんねえパンダよりか俺は中身のがいいんだよ…!」
「パンダ可愛いじゃんか! この可愛さ判んないなんてバカだろ跡部!」
神尾は跡部の発言を流したのか気づいていないのか。
結構とんでもなく甘い事を跡部が口走ったのを、その場にいた人間はしっかり聞きつけてしまって更なるダメージで立ち上がれない。
ただでさえ、きぐるみパンダ姿がやけに似合っている神尾と、氷帝きっての有名人跡部との異色の構図はインパクトが強すぎるのだ。
どうやら喧嘩しながらも交わされる二人の会話の端々から伺うに、神尾は友人のピンチヒッターとして、このきぐるみを着ているらしい。
バイト代も出るんだぜ!と今度は一転してにこにこと笑う神尾は、座ってしまっている跡部に顔を近づけるようにして、四つん這いになっている。
往来で見るのは有り得ない光景だろうと、自然と集まってしまった座り込み組達は、手に手をとらんばかりになっていた。
「てめえ……何でよりによって今日、バイトなんざしやがるんだ」
「今日だからだろー。跡部、誕生日おめでとうなー」
「ついでみたいに言うんじゃねえよ」
跡部さんものすごく拗ねてます。
鳳が大真面目に跡部を評するのに、異論の返答は勿論ない。
「ついでなんかじゃないって。だってもうバイト終わったんだぜ? このまま跡部の所行こうと思ったら、跡部が見えたからさ。だから俺走ってきたんだぜ」
「………危ないだろうが」
「そういや跡部って、パンダの中身が俺でも驚かなかったな?」
「当たり前だ。何着てたって中身がお前なら判るに決まってる」
跡部さんものすごい愛ですね。
尚も鳳が言って、それで漸く面々は呪縛が解かれたようにのろのろと動き出した。
これ以上ここにいるのは居たたまれない。
だいたい跡部も神尾も、お互いの事しか見えていない。
「樺地、跡部の荷物貸せ。あいつん家の庭に放り投げてくる!」
「……ウス」
「宍戸さん、ここに置いていかないんですか?」
「お前の持ってるその誕生日プレゼントがあるだろ……そんなもん置いていけねえだろ。庭に一個投げるも二個投げるも同じだ」
「………神尾君の為ですね。宍戸さん優しい」
「うるせ」
ここはここで甘い。
一方ジローは現実逃避で再び眠ってしまったので、日吉と滝がまたもや悪戦苦闘し始めた。
一人威勢良く悪態ついている岳人の隣で、忍足は真剣に考え込んでいる。
「なあ岳人。このパンダの頭はどないしよか……」
「転がしとけ侑士…!」
「まあ、そう怒んなや。岳人」
「最悪カップルだ……あいつら……」
「いやいや……ある意味最強やで?」
そうして往来に残されたのは。
今日誕生日を迎えた綺麗な顔の男と。
パンダのきぐるみを着た一つ年下の恋人と。
パンダの頭のみだった。
そうやって。
身軽になったと思ったのはほんの一時。
今度は、学校を出たら出たで。
その瞬間から跡部の元へと再び集まり出すプレゼントの数々に、跡部慣れしきっている氷帝テニス部の面々ですらも呆れたり感心したりと実に忙しい。
「………さすがですね…跡部さん」
ギフトボックスが詰め込まれていく紙袋を両手に下げて鳳は生真面目に感心している。
樺地は鞄があるから、そっちは俺が持つよと言い出した人の良い鳳の少し前を歩きながら、機嫌が悪いのは宍戸だ。
「下級生を顎で使ってんじゃねえよ。跡部」
「ああ? 鳳が自分で持つって言ったんだろうが。お前こそどれだけ鳳に過保護なんだ? 宍戸よ」
「うるせえ!」
人の悪い笑みを浮かべる跡部と、不機嫌さが増す宍戸の小競り合いはいつもの事で。
鳳は困ったように笑い、樺地は困ったように沈黙して、上級生の後を歩いていく。
眠たくて眠たくてどうしようもなくなって、ふらふらよろよろ辛うじてといった状態で歩いているジローにかかりきりなのは日吉と滝で。
最後尾にいる向日はそんな三人を指差して笑っている。
「なあなあ侑士。ジローの奴、おむつが重い、歩き始めの幼児みたいじゃね? おもしれー!」
「それで、あっちがおとんで、そっちがおかん?」
「そうそうそう!」
日吉と滝は、身体を半分に折る勢いで爆笑する向日ではなく、悪ノリさせる忍足を責める様に、ジローを挟んで振り返り、睨みつけてくる。
そんな事など眼中にない様子で飄々と向日を増長させるような相槌ばかりをうっていた忍足が、ふいに低い声を響かせて言った。
「跡部」
「何だ」
足を止めた最前部と最後部。
目線を合わせた二人の狭間で他のメンバーも思わず立ち止まる。
「パンダや」
「………ああ?」
「パンダが走ってくる」
忍足が指で指し示した先は、彼等が歩く歩道脇の道路の向こう側。
「……………パンダ……」
「…………………ほんとにパンダだ……」
パンダー、イェーイ、と突如目を覚ましてハイテンションになったジローを除く全ての人間が、唖然となって見つめた先。
きぐるみパンダがものすごいスピードで道路を渡ってこちら側に向かって走ってくる。
次の瞬間、ギャー!と叫んだのは向日で、何故かといえば勢いあまったパンダが躓いて、そのままのスピードでこちら側にゴロゴロと転がってきたからだ。
阿鼻叫喚の中、お前らどけ!と物凄い大声を出したのは跡部で、言われなくても!と言葉にならないままにその場から飛びのいたのが全員だ。
白と黒とのパンダは、何故か一人避けなかった跡部にぶつかって、でんぐり返って漸く止まった。
歩道に足を開いて座り込んだ態勢で、ごろんと被り物の頭が落ちる。
身体だけがパンダになったその物体。
パンダのなかみは満面の笑顔でパンダ手を上げて言った。
「よう、跡部!」
不動峰中の二年、神尾アキラがパンダのなかみだ。
正真正銘その場に腰を抜かしてしまった氷帝学園テニス部の面々の中で、流石は元カリスマ部長、跡部景吾である。
「…………何の真似だこれは」
「パンダだよ! 見てわかれよう。可愛いだろう? パンダ」
「可愛かねえよ。馬鹿」
「馬鹿って言った! 可愛いじゃんかよ!」
「……んな訳わかんねえパンダよりか俺は中身のがいいんだよ…!」
「パンダ可愛いじゃんか! この可愛さ判んないなんてバカだろ跡部!」
神尾は跡部の発言を流したのか気づいていないのか。
結構とんでもなく甘い事を跡部が口走ったのを、その場にいた人間はしっかり聞きつけてしまって更なるダメージで立ち上がれない。
ただでさえ、きぐるみパンダ姿がやけに似合っている神尾と、氷帝きっての有名人跡部との異色の構図はインパクトが強すぎるのだ。
どうやら喧嘩しながらも交わされる二人の会話の端々から伺うに、神尾は友人のピンチヒッターとして、このきぐるみを着ているらしい。
バイト代も出るんだぜ!と今度は一転してにこにこと笑う神尾は、座ってしまっている跡部に顔を近づけるようにして、四つん這いになっている。
往来で見るのは有り得ない光景だろうと、自然と集まってしまった座り込み組達は、手に手をとらんばかりになっていた。
「てめえ……何でよりによって今日、バイトなんざしやがるんだ」
「今日だからだろー。跡部、誕生日おめでとうなー」
「ついでみたいに言うんじゃねえよ」
跡部さんものすごく拗ねてます。
鳳が大真面目に跡部を評するのに、異論の返答は勿論ない。
「ついでなんかじゃないって。だってもうバイト終わったんだぜ? このまま跡部の所行こうと思ったら、跡部が見えたからさ。だから俺走ってきたんだぜ」
「………危ないだろうが」
「そういや跡部って、パンダの中身が俺でも驚かなかったな?」
「当たり前だ。何着てたって中身がお前なら判るに決まってる」
跡部さんものすごい愛ですね。
尚も鳳が言って、それで漸く面々は呪縛が解かれたようにのろのろと動き出した。
これ以上ここにいるのは居たたまれない。
だいたい跡部も神尾も、お互いの事しか見えていない。
「樺地、跡部の荷物貸せ。あいつん家の庭に放り投げてくる!」
「……ウス」
「宍戸さん、ここに置いていかないんですか?」
「お前の持ってるその誕生日プレゼントがあるだろ……そんなもん置いていけねえだろ。庭に一個投げるも二個投げるも同じだ」
「………神尾君の為ですね。宍戸さん優しい」
「うるせ」
ここはここで甘い。
一方ジローは現実逃避で再び眠ってしまったので、日吉と滝がまたもや悪戦苦闘し始めた。
一人威勢良く悪態ついている岳人の隣で、忍足は真剣に考え込んでいる。
「なあ岳人。このパンダの頭はどないしよか……」
「転がしとけ侑士…!」
「まあ、そう怒んなや。岳人」
「最悪カップルだ……あいつら……」
「いやいや……ある意味最強やで?」
そうして往来に残されたのは。
今日誕生日を迎えた綺麗な顔の男と。
パンダのきぐるみを着た一つ年下の恋人と。
パンダの頭のみだった。
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