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How did you feel at your first kiss?
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 神尾の情緒がひどく不安定になっているのは、この場に橘がいないせいなのかもしれない。
 それを思うと跡部も決して気分が良い訳ではない。
 そうかといって、平静を保てず苛つく神尾を放っておけばいいと思った所で、それも出来ず。
 わざわざ人目を盗んで呼び出すような真似をしている自分が、跡部には我ながら理解しがたかった。
 人目があろうがなかろうが。
 ジュニア選抜の合宿中だろうが何だろうが。
 からかうように神尾に構って、彼を煽って、そのフラストレーションを発散させてやる事だって幾らだって可能だろうに、ポジティブな神尾ならば幾らだって苛めてやれるがネガティブな神尾には奇妙な庇護欲がそそられて、跡部自身溜息混じりに呆れた言葉を放るだけの自分が苦々しい。
「三年も部長もいないで参加している以上、他校の奴ら以上に個人責任が重いんだぞ。お前らは。それが判っててあのザマか?」
 食堂で、神尾が立海大の切原と殴り合いの喧嘩をした日の夜。
 自主トレらしく、ジャージ姿で一人で合宿所を出ようとしていた神尾を、跡部は合宿所のひとけのない一室に連れ込んだ。
 何分人もこない部屋だから、物も何も置かれていない空き室だ。
 電気もつけず、窓からの月明かりだけで顔を合わせる。
「………何だよここ」
「誰も来ねーよ」
「何でそんなこと判るんだよ」
 跡部が目線で呼んで顎で促した神尾は、後をついてはきたものの、気配はささくれ立って荒い。
 大方、食堂での一件を発散させようとしていた所を邪魔されて、不機嫌の極地にいるのだろうと跡部は察した。
「この合宿所は俺の家の持ち物だ」
「………………」
 跡部を睨み、不機嫌を隠しもせずにいる神尾だったが、跡部が言った最後の言葉で、おし黙った。
 舌打ちじみた溜息を吐き出している。
 背けられた神尾の横顔に、跡部も剣呑と吐息をついた。
「神尾」
「……判ってる」
「そうは見えねーな」
「判ってる!」
 苛立った言葉を神尾からぶつけてこられても、跡部は不思議と腹がたたなかった。
 やっと神尾が跡部を見た。
 月明かりは割合に明るく、神尾の細い首筋が、青白く跡部の目に滲みこんだ。
「アレが、何をどこまで考えての行動だって?」
「うるせー! 俺の事までえらそうに口出すな!」
「目にあまるんだよ」
 言い捨てる。
 神尾がぐっと息を飲んだ。
「…………、…」
「別に俺は個人的にお前にちょっかい出してるんじゃねーよ」
 淡々と跡部は低い声で言う。
 神尾の双瞳が、ふと、月光を反射させるように揺らいだ。
 泣くらしい。
 泣く理由によっては、ただじゃおかないと跡部も神尾を睨み据えた。
「あれは、ただの、俺個人の喧嘩!」
「……………………」
「不動峰って学校がどうとか、橘さんや三年生がいないからとか、そういうのは全然関係ねえんだよっ。俺がガキで、あからさまな挑発もろくにあしらえなくて、我慢出来なくなって、手出して、騒ぎ起こしただけの、……っ…」
 本気で激高して、真剣に怒鳴っている神尾は、痛々しかった。
 跡部は両腕を伸ばす。
 叫んでいるままの身体に。
「……そうじゃねえだろ」
「…………っ…」
 強引に抱き込んだ身体は薄かった。
 暴れられたが、跡部が本気を出せば容易くこうして封じ込められる。
 まるで熱を放っていそうな見目の激しさだったが、こうして抱き締めてしまえば、神尾の身体は跡部の手の中で、硬く、冷たく、か細かった。
「お前が不動峰だからだ」
「…、………っ…」
 抱きすくめたまま跡部は言った。
「暴力に意味なんざ何もないって事をお前らは誰よりも知っているし、お前らがそれを知ってるって事を、俺は知ってる。だから騒ぐな」
「…………ん…だよ……」
 ぐしゃっと何かを握り潰したかのように、神尾の声と涙が崩れて零れた。
 跡部は神尾の背を擦る。
 仕草があまり優しくならないように。
「おい。今日の自主トレは止めとけ」
「……………嫌だ」
「腹立ちまぎれに発散させようたって、怪我するのがオチだ。忘れてるなら教えてやるが、お前は、バカ、なんだからな。二つの事を同時に出来ない単細胞なんだから、走るならいつもみたいに何にも考えないでへらへら笑って走るのだけにしとけ」
「あ…っ、…跡部っ、てめ……っ…」
 神尾が激しく暴れだして、跡部は微かに笑った。
 ちらりと見下ろせば、神尾の首筋が赤かった。
「…………五分でお前をめちゃくちゃにしてやるよ」
「な…、……?…」
「怪我させずにな」
 跡部は片手で神尾の後頭部を鷲掴みにした。
 楽に指に包めるほど、神尾のそれは丸く小さい。
 食いつくように唇を塞いだ。
「…ン……ッ…………ん…っ」
「……………………」
 もがく神尾を跡部は全身を使って窓辺に追い詰める。
 細い両足の狭間に跡部は脚を割り入れて、腿でそれを押し上げた。
「……ひゃ…、…っ……」
「………五秒でこれか? ん?」
「ャ………、……だ……、」
 神尾の耳元近くの髪の生え際に唇を押し当てて、跡部はそこを吸い上げながら低い声に笑みを交ぜる。
 ジャージの上着の裾から左手を差し入れて、神尾の薄い胸に伸ばした指先に頼りなく触れたものを痛ませないように撫でさする。
 頃合を見計らってそれをそっと押し潰すと神尾は跡部の肩に辛うじて取り縋りながら頼りない声をあげた。
「……、…ふ…っ…ぁ…、」
「神尾」
「……ぁ……っ……ャ…跡…部…、…」
 普段はひどく痛がるからしないのだが、ジャージの上からなら大丈夫だろうと跡部は神尾の胸元に歯を立てる。
「ゃぁっ…ゃ、っ、ぁ………」
 びくびくと神尾の肢体が跳ねて、跡部の頭を胸元に抱きかかえるようして腕が回される。
 跡部はそのまま膝をついてしまった。
「……跡……部……、…?…」
 神尾の腕からするりと逃げて、跡部は神尾のジャージの下履きを少し押し下げた。
「え…?……ちょ、…っ………」
「他の奴らが集まってくるような声は出すなよ」
 からかいながら跡部は上目に神尾を見上げた。
 神尾の赤い顔は不安そうで、片目だけ見えている瞳から涙が零れ落ちそうだと思ったら、本当にそれが跡部の頬にぽつんと落ちてきた。
「………外野が集まってきても、お前がいくまでは続けたままだからな」
「ひ………ぁ………っ……」
 多分に本気で脅すように告げてから、跡部はわざと啜り上げるような音をさせてそれを銜え込んだ。
「ん…っ…、ん、っ……ゃ、跡部…、」
「……………………」
「………ぁ…、…も…」
 震えている神尾の両足を跡部は両手で掴み取って、無理矢理立たせたまま舌をつかった。
 神尾は窓辺に殆ど身を預けるようにして寄りかかりながら、切れ切れに甘い息を降り零している。
 しゃくりあげて泣くような神尾の声を聞きながら、跡部は粘膜で神尾を締め上げた。
「も…、……ゃ……、…っ…ぁ」
 吸い上げてやりながら跡部が両手を神尾の腿から外すと、すぐに神尾が崩れ落ちてきた。
 低く笑いながら抱きとめてやる。
 小柄な身体はぐったりとなって跡部の胸におさまった。
「本当に五分でめちゃくちゃになっちまったな」
「………っ…、……」
「まだ憂さは晴れねえか? うん?」
「…………る…せー……」
 ばか、と甘く舌足らずな声で詰られて。
 神尾がジャージの袖口で荒っぽく跡部の唇を拭ってくる。
 それを笑って受け止めた跡部は、立ち上がる前に最後にもう一度だけ神尾を抱き締めた。
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