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How did you feel at your first kiss?
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 好きな曲でも、この状況で聴き続けるのは辛い。
 いよいよ我慢できなくなって、神尾はベッドに寝たまま手探りでその音の根源である携帯電話を探した。
 あんまりにも眠すぎて、目も開けられない。
「うー……っ…」
「ううんじゃねえよ。バァカ」
「………ぅぁ?……だれ?」
 舌がもつれる。
 自分でもどうやったのか、とにかく電話に出る事は出来たようで。
 神尾は眠いあまりに泣きそうになって言った。
「だれだよう。ねむいんだよう……」
「…………甘ったれた声出すなバカ」
 ああ怒ってる。
 怒ってるけど、で、これ誰だ。
「…………………」
「だれぇ?………」
「判んねーとか言うか。てめえ」
「………………イタ電なら、切るかんなー…………、もーかけてくんなー…よー……」
 朦朧となって呟きながら健やかな眠りに戻ろうとした神尾の鼓膜は、次の瞬間ビリビリと激しく震えて酷く痛んだ。
「いつまでも寝ぼけてんじゃねえッ!」
「……っ…っ…っ…、!」
 ベッドの上でもんどりうった神尾は、当然のようにそこから転げ落ち、床にばったりと倒れ落ちた。
「いたい………」
 打ち付けてしまった額を押さえて泣き声をあげると、容赦なく続けられていた罵声がふと途切れた。
「……何やってんだお前」
「何ってよう、ベッド、ベッドから落ち、て、………あれ? 跡部……?」
「遅い!」
 いよいよ手加減無しに怒鳴られて、神尾は漸く正気づいた。
「なん、……なん…っ…、なんでお前が俺に電話かけてくるんだよ…っ?」
「文句あんのか」
「なんの用だよっ……」
 目に見えない相手に身構えて、神尾は完全に覚醒した。
 条件反射といっていい。
 別に怯えているわけではないが、どうも跡部とは相性が悪いみたいで、いつもこんな風になる。
 特に最近の跡部はおかしい。
 何だかやたらと神尾の視界に入ってくる。
 違う中学校の、学年だってひとつ上。
 唯一の接点のテニスだって、最初のうちは神尾の存在すらシカトしていたのに、最近では、そこまで言うかっていうくらい神尾を構いたおしてくるのだ。
 よく顔を見るようにもなったし。
 そのくせバカにされたり怒鳴られたりばかりで。
 訳が判らなかった。
「…………あああ、なんだよ、まだ六時じゃんかっ。何て時間に電話してくんだよっ」
 部活あるからそんなに不規則な生活はしていないが、だからといって貴重な夏休みももうすぐ終わってしまう。
 今日はその部活もない日だから、存分に朝寝坊をするつもりだった神尾は目覚まし時計を見て叫んだ。
「こんな朝早くから、いったい何…っ」
「十四歳祝いに抱いてやる」
「………………」
 冷たく澄んだ声で跡部はそう言った。




 今日は神尾の誕生日だった。




 いったいぜんたいなにがどうしてこういうことになったのかと、神尾はずっと半泣きだった。
 涙こそないものの目元は赤く潤んで、早朝の電話をかけてきた跡部に引きずられるようにして歩いている。
「離せってば……っ……手、痛い…っ」
 跡部はよりにもよって神尾の家の前から電話してきていた。
 今すぐ出てこないと玄関のチャイムを連打で鳴らすと言われて。
 ここはやはり親を気にして神尾は飛び出していった。
 なんでジャージ着てくるわけ、と冷たい一声を跡部に浴びせかけられた神尾は、一番近くにあったからだという答えもろくろく言わせてもらえず跡部にいきなり手を握られてぎょっと竦み上がった。
 手。
 手、握られた。
 驚愕の神尾を連れてそのまま跡部は歩き出す。
 スピードが身上の神尾が引きずられていく速さでだ。
「どこ?……どこ行くんだよ?」
「お前がジャージなんか着てくるからホテル使えないじゃねえか。バカ」
「ホテル? なんでホテル?」
 神尾が半ベソで尚も問えば、跡部は呆れきった溜息を吐き出して神尾を振り返った。
「抱いてやるって言ったろうが。ぐちゃぐちゃ言ってないでついて来い」
「……だ、……だい……」
 現実味のまるでわかないことなのに、酷く怖くもあって神尾は青くなった。
 足を踏ん張って、このまま行くのを嫌がると、跡部はたちどころに凄い形相になった。
「なに嫌がってんだぁ?」
 不機嫌が冷たく凍ったきつい目と声とに、神尾は首を振って繋がれた手を解こうとする。
「…ゃ、……だも……っ……」
「ああ?」
「帰る……!」
「帰すわけないだろーが。バカかお前」
 お前今日誕生日なんだろうと横柄に見下されて神尾は意味が判らない。
 8月26日。
 確かに今日は神尾の誕生日だったが、だからそれでどうして跡部に抱かれる事になるのかが判らない。
「抱くって……抱くって……?」
「俺様がしてやるって言ってんだよ。十四歳祝いに抱いてやる。何遍言わすんだ」
 死ぬほどいい思いさせてやる。
 跡部は言った。
 もう誰ともしたくなくなるようなのやってやる。
 そうも言った。
 神尾が半ベソのまま怖いのと呆気にとられたのとで晒した表情に、しまいには有り難がれバカと怒鳴られた。
「そんなのしたくない…っ」
 どうして跡部とそんなことしなければならないのか、神尾にはまるで判らなかった。
 どうしようもなく跡部が怖くなってきた。
「そんなの? したくないだと? したこともないくせに何断言してんだ?」
「じゃ、跡部はあんのかよ……っ…?」
 精一杯の虚勢で神尾が言葉をぶつければ、呆れ果てた跡部は、あるに決まってんだろと即座に言い捨てた。
「……………………」
「……、……てめ……」
 ぼろっと涙が落ちた神尾の前で、跡部が声を荒げてきた。
 少し慌てたような、今度は冷たくない声。
 でも神尾は何が何だか判らないけれど酷いショックを受けたままで、唇を噛み締めた。
 ぽたぽたと涙が地面に落ちていく。
「おい。神尾」
「俺…しない……」
 跡部となんかとしない。
 下を向いて、涙を落としながら、震える声で神尾は言った。
「絶対しない……っ」
 してみたいからやらせろとかだったらまだよかった。
 神尾は自分がとてもおかしなことを考えているような気がしたが、どうにもそれしか思いつかない。
 したことあるのにどうして自分を抱くとか言うんだと泣いた。
 頭の中にあるのはそれだけ。
 道のど真ん中で何でこんなことになってるんだと後ずさろうとするのを悉く跡部に阻まれた。
「……神尾のくせして初物好きか?」
 荒い舌打ちと一緒に吐き捨てられた言葉の意味も判らないまま神尾は跡部につかまれている手を取り返そうと躍起になった。
「いらない。跡部なんかいらない…!」
「………てめえ」
「誰か別の奴とすればいいだろ……っ…」
「俺がお前にしてやるって言ってんだろうが」
「やだ」
「なんで」
「なんででも…っ……」
 もう一度舌打ちが聞こえた。
 いきなり、あれほどびくともしなかった跡部の手が神尾の手を放り出すようにしてほどけて。
 開放された。
 でも逃げ出せはしなかった。
 走り去ろうとした神尾は、またすぐ捕まった。
 今度は跡部の両腕で、縛りつけられるように抱きしめられて。
「誕生日なんだろ」
「……っ……、……」
「十四祝いに、頭おかしくなるようなやつ、やってやる。誰にもしたことないくらい優しくかきまわしてやる。お前の初めてを俺が貰ってやるって言ってんだ。何が不満だ」
「………ゃ……だ…ぁ…」
 まだもっと怖いことを言われて、嗚咽まで零れてくるけれど、神尾は何故か跡部のシャツをぎゅっと握り締めている自分に気づく。
 まるで必死に縋りついているみたいで。
 跡部に。
「やだやだ言ってんじゃねえよ」
 不機嫌な声で言われて首の裏側が痛くなる。
「……ッ……、た…」
 噛まれたらしかった。
 そのあと濡れてて柔らかい感触がして、神尾は本能で赤くなる。
「…………白い」
「………ぅ………」
「無駄にエロイんだよお前は」
「…、……んで……怒んだ…よう……」
「べそべそ泣くなって言ってんだろ」
「…ぃ…ってない」
「うるせえ」
 唸るような言葉と一緒に跡部が身体を離してきて、ちょっとさみしいと思ってしまった神尾は、その後にはもう跡部に抱え込まれるようにしてキスされていた。
「……ぅん」
「クソ………声もかよ」
「…………ふ、…ぁ………」
 仕方も知らなかったけれど、され方だって知らない。
 跡部の手に腰を抱きこまれるのもだいぶやらしくて、それがいやではなくて、神尾はくらくらと眩暈を起こした。
「お前馬鹿だからな。覚えも悪そうだし、無駄にエロイときたらこれから先行き大抵予想がつく」
 早いうちに手つけとかなきゃ危なくてしょうがないとキスの合間に苦々しく言われても、神尾はとろりとした目で跡部を見るのがせいぜいだった。
 唇が痺れて、息が震えて、恥ずかしくってまた泣いたら、跡部が何だか信じられないくらい優しく抱きしめてきた。
「………あとべ?」
「…………くそったれっ」
 何だか跡部らしくない悪態と一緒に強く強く抱き締められて、神尾は跡部の首筋にしがみついた。
 てっきり引き剥がされると思っていたのにそうされなくて。
「家に持ち帰るなんざ初めてだ」
「跡部………」
 神尾の肩を抱いて歩き出した跡部に再び引きずられながら、神尾はやっぱりいったいぜんたいなにがどうしてこういうことになったのか判らなくて。
 でもいいやと思った。
 思わざるを得なかった。
 この横柄で暴君で冷たくて辛辣な跡部のことを。
 実は好きなのだと気づいてしまった。
 これから何をされるのか知らないけれど、一緒にいたい。




 跡部を好きになって、神尾は十四歳になった。

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