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How did you feel at your first kiss?
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 時々こういう事がある。
 外出先で、何故か彼らは顔を合わせる事になるのだ。
 彼らは六人。
 そして三人組でもある。
 偶然なのか必然なのか不思議と遭遇してしまうのだ。
 今日は、オープンしたばかりの屋内テニスコート場の出入り口付近で。
 元プロ選手や現役の選手達が数名、オープニングイベントに参加し、広大なコートも開放するとあって、人の入りはかなりのものだった。
 そんな中でも不思議と行き当たる。
 出会えてしまうことは幸か不幸か。





 冬の冷気が音をたてている。
 風の吹き付ける甲高い音は冬の音色だ。
「来いっつってんだよ」
「やだ」
 取るに足らない口喧嘩はいつものこと。
 故に仏頂面をしている氷帝の跡部と不動峰の神尾は、お互いの距離が開き、そっぽを向きあいながらも一応は一緒に出てきているのだ。
「寒いんだろうが」
「それは跡部だろ。跡部が来りゃいいじゃん」
「俺は寒くねえんだよ」
「俺だって寒くない」
「震えてんだろうが」
「…跡部だってそうだろ」
 目線を合わせなくてもお互いの状況は判っている。
 しかし妥協するなり歩み寄るなりするには、まだもう少し時間がかかりそうな二人、そんな彼らから少し離れた所で、青学の乾と海堂は同じ寒空を見上げ冷気を浴び、身を竦ませている。
「海堂。もう少し近くに来ない?」
「………何でマフラーするなりもう一枚着てくるなりしないんですか」
「海堂といる時は熱上がるからこれくらいでちょうどいいかと思ったんだよ」
「………………」
 乾は微笑し、剥き出しの首筋の裏側に手をやって海堂を眼差しで見下ろす。
 海堂は言葉を詰まらせて眉根を寄せたが、息をのんだ様は乾の目には稚く映った。
 僅かに俯いてしまった海堂が、そのくせ乾の言葉に沿うべく、もう少し近づこうかどうしようかと、躊躇している気配がまたあからさまだったから尚更だ。
 近づきそうで近づかない微妙な距離に、甘い気配を一層煮詰めていく乾と海堂から更に少し離れた所で。
 全く衒いなくお互いの距離の縮めているのが氷帝の二人、鳳と宍戸だった。
「宍戸さん。もっとこっちに来て下さい」
「これ以上どうやって近くに行くんだよ」
「寒くないですか?」
「ねえよ。お前は?」
「あったかいです。宍戸さんは?」
「あったかいけどな。もう少し離れろよ。歩きにくい」
 腰を抱くような至近距離で、鳳と宍戸は歩き出す。
 彼らはまず乾と海堂に気づき、声をかける。
「乾と海堂じゃねえか」
 やあ、と目線を向けた乾とは対照的に、海堂は詰めかけていた乾との距離を飛びのくように広げて後ずさる。
 何だ?と宍戸が首を傾げるのに乾は微苦笑して首を振る。
「なんでもないよ。ちょっと驚いたんだよな? 海堂」
「………、……」
「……海堂飛び退かせるほど俺は凶悪か?」
 宍戸が複雑そうに傍らの鳳を見上げると、鳳はとんでもありませんと真顔で言った。
「宍戸さんはいつでも綺麗です」
「会話になってねえよ。長太郎」
 溜息をついて宍戸は海堂に向き直った。
「よく判んねえけど、驚かしたんなら悪かった」
「や、…違……すみません」
 海堂が口ごもった後、珍しくも慌てたように頭を下げる。
「あれ。宍戸さん。あっちには跡部先輩がいますよ」
「不動峰の神尾と一緒のようだ」
 鳳と乾はそう言うなりそれぞれの恋人を促して、実に判りやすく気まずい雰囲気を醸し出している跡部と神尾の元へと歩み寄る。
「おい。なんだよいきなり」
「乾先輩?」
 鳳に腰を抱かれた宍戸と、乾に肩を抱かれた海堂は面食らう。
「人助けだと思って。ね? 宍戸さん」
「はあ?」
「そういう事だ。海堂」
「…意味わかんねえっすよ」
 そうやって突如現れた四人を目にした跡部の形相は手加減も気遣いもなく歪む。
「てめえら……」
「跡部先輩達もいらしたんですね」
「久しぶりだな。跡部。神尾」
 不機嫌極まりない跡部の目は、呪い殺すような凄まじさで鳳と乾を睨みつけている。
 神尾はさすがに上級生の乾と宍戸には目礼を、同級生の鳳と海堂には気まずそうな顔を見せた。
 訳が判らず連れてこられた感のある宍戸と海堂も最初こそ弱り顔をしていたのだが。
「寒い寒くないって、ガキみてえな言い争いしてんじゃねえよ。お前ら」
 平然と火に油を注ぐような物言いで宍戸が跡部に言い捨てる。
 跡部と神尾の言い争いは彼らに近づいて行くつれ、無論宍戸の耳にも届いていた訳なので。
「宍戸……キサマ……」
「寒いに決まってんだろ。今日氷点下なんだぜ? 寒けりゃ寒いでくっついてりゃいいだろうが」
「ですよね。宍戸さん。いつでも言って下さいね。あっためます」
「だから俺はもうあったかいんだよ。もう少し離れろってさっき言ったよな? 長太郎。歩きにくいんだよ」
 怒りながらも鳳の手は払わずに、宍戸は腰を抱かれている。
 跡部の鋭い視線を受け止めたまま、宍戸は跡部達へ呆れ返った表情を崩さず晒している。
 そして片やの青学の二人組みもまた。
「そうやって背中丸めてると目立つっすよ……あんた背高いんだから」
「やー……どうにも寒くてねえ……」
 溜息を吐き出した海堂は、自分の鞄の中から使い捨てのカイロを取り出した。
「ちょっと後ろ向いて下さい」
「ん?」
「手入れますよ」
 乾のコートの裾を捲って、一枚だけ着ているらしい乾のネルの上着の背中側にカイロを貼る。
 暫くしてカイロが温まってくると、乾は思わずといった風に呟いた。
「……結構あったかいな」
「首に近いくらい上側に貼るのがコツです」
「へえ……」
「マフラー、巻いてください」
「え? いいよ、それは海堂のだし…」
「いいから巻けって言ってんです。先輩」
「………はい。…じゃ、ありがたく」
 ものすごくきつい目で乾を睨みすえながらも、甲斐甲斐しいこと極まりない海堂は、乾が自分で行ったマフラーの巻き方にも嘆息して、屈んでくださいと口にした。
 そうして僅かに屈ませた乾からマフラーを一旦外し、海堂は再び、慣れた手つきでそれを巻き直していく。
「………………」
 四人が四人全員に作為的なものを感じる訳ではないのだが、跡部の不機嫌はいい加減ピークを迎えかけていた。
 これだけ甘ったるい光景を無理矢理見せ付けられてはそれも当然と言えた。
 いつまでも言い争ってなどいないで、さっさと跡部も温まってしまえばいい。
 乾と鳳はそんな思惑も込めて、そろそろ立ち去ろうとお互いの恋人を促し歩き出す。
 背を向けた四人の背後で、中断されていた跡部と神尾の言い争いが突然に再開されて、それは彼らに苦笑を呼んだのだが。
「だいたい昨日俺が寒いって言ったのは、跡部が俺にいつまでも服着せなかったからだろ…っ」
「熱いって泣きじゃくってたじゃねえかよ。お前」
「泣いてないっ」
「嘘つけ馬鹿」
 四人の苦笑いは、跡部と神尾の言い争いの原因の、濃厚すぎるその内容に。
 力なく消え、居たたまれなく、その場から立ち去る歩を早めさせたのだった。
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