How did you feel at your first kiss?
多分自分達は似たタイプではない。
寧ろ性格は真逆かもしれない。
「長太郎、どこ行くんだよ?」
「どこにしましょうか」
「しましょうかって……行先決めてないのか、お前」
駅のホームでのんびりと微笑む鳳は、大概において大らかだ。
宍戸はどちらかといえば感情直結型で、口調も荒っぽい。
宍戸の方が年上だという事を差し引いても、鳳は宍戸に従順で、宍戸は鳳に割合好きな事を言っている気がする。
「あ、宍戸さん。電車来た。乗りましょう」
「別に乗り遅れねえよ!」
何で手握ってんだと宍戸が呆れて、鳳は子供っぽいんだが大人っぽいんだか判らない笑みで宍戸の手を取ったまま電車に乗り込む。
マイペースなのは鳳で、案外型通りなのは自分かもしれないと宍戸は思う。
そんな風にやっぱりあんまり似ていないのに。
一緒にいて、ほんの少しも違和感を覚えない。
二百人もいるテニス部の中で、かなりイレギュラー的にダブルスを組むことになって、いつの間にか一番近い関係になった。
気が合うという一言では片付けられないほど、お互いといることがあまりにも当たり前だった。
「………………」
相変わらず自分の手を取ったまま先を歩く鳳の背中を宍戸はじっと見つめて考える。
長身の後輩は、それでいて普段、人に威圧感を与える事は全くないが、こうして見れば広い背中は骨格がしっかりとしている。
思わず見ている側の力の抜けるような柔らかい笑みを浮かべたり、年下らしい可愛げで頼りなさを見せる事もあるけれど、多少強引な所もあるにはあるのだ。
そして、そんな鳳に手を引かれておとなしく彼の後ろを歩いている自分も、宍戸にしてみれば他では絶対にしない真似だという自覚がある。
一緒にいたいからと誘われるまま、ついていく。
決まっていない行き先に向けて、電車に乗って、二人で。
「宍戸さん、どっち向きで座るのが好きですか?」
しばらく車両を歩き、左側の座席に手をかけて鳳が立ち止まって聞いてきた。
車両の座席は対面式になっている。
電車の中はすいていて、四人掛けのその座席を二人で使っても何の問題もないようだった。
「そりゃ進行方向向いてる方が」
「じゃ、こっちですね」
エスコートでもするかのような鳳に自然に促され、宍戸は腰をおろした。
窓際の席。
その真向かいに鳳が座る。
「……って、お前そっちでいいのかよ」
当たり前みたいに宍戸を優先する鳳に問えば。
「俺は宍戸さんの顔見られればいいんで」
何となく予想の範疇内の即答が返されて、宍戸は横様に、足で鳳の靴の辺りを蹴る。
加減はしたけれど、蹴られた鳳はいつもの柔らかい笑みを浮かべて平然としているばかりだ。
呆れていた宍戸の方が気恥ずかしくなるような甘ったるい笑い顔に、それ以上言いようもない。
宍戸は誤魔化すように窓の外に流れる景色に視線をやった。
鳳がゆっくりと違う事を話し出す。
「鉄道って左側通行じゃないですか」
「………あ?」
「だから、進行方向左側の窓際に座ると景色がいいんです」
「あー……確かにな…」
普段あまり出向かない方角に向かう、乗りなれていない沿線。
窓の外の景色は次第に住居地や雑踏から離れていく。
窓辺の縁に肘をついた手で頬杖して、宍戸は少しずつ変化していく景色を横目に同意した。
「代わるか? 席」
ちらりと鳳に目線を向けて問いかけると、鳳は僅かに首を傾けるようにして笑みを深めた。
綺麗な顔してんなあ、と今更ながらな事を宍戸は考える。
「後ろ向きの景色もいいんですよ」
「そうか?」
「前向きだと前方がよく見えるけど、無意識にずっと視線を動かす事になるから疲れる事もあるんだそうで」
疲れたら代わりますね、としっかり付け足して話す鳳の、優しげで穏やかな声に宍戸は耳をすます。
「後ろ向きだと、去っていく景色をずっと見ていられるから、これはこれで楽しいんです」
ふうん、と宍戸は相槌をうって、その流れで普段だったら絶対言わないような言葉を、ついでにぽろりと零してしまった。
「お前は結局景色と俺とどっちを見てんだよ」
不貞腐れたような声が出てしまったのが我ながら頭が痛いと、宍戸はすぐに後悔したのに。
鳳は驚くでもなく、慌てるでもなく、しっかりとした熱量の宿る甘い目で宍戸を見つめて、笑みを深めた。
「視線を動かさないで、ずっと見ていられるので。こっち側座らせて貰って、俺、すごく得してますね」
結局のところ、景色なんか見ていない目で見つめられて、宍戸は頭が痛い。
何でここで赤くなる。
自分が。
そう思い、とにかくひたすら、頭が痛い。
車窓の景色は、冬の終わりの青空だった。
寧ろ性格は真逆かもしれない。
「長太郎、どこ行くんだよ?」
「どこにしましょうか」
「しましょうかって……行先決めてないのか、お前」
駅のホームでのんびりと微笑む鳳は、大概において大らかだ。
宍戸はどちらかといえば感情直結型で、口調も荒っぽい。
宍戸の方が年上だという事を差し引いても、鳳は宍戸に従順で、宍戸は鳳に割合好きな事を言っている気がする。
「あ、宍戸さん。電車来た。乗りましょう」
「別に乗り遅れねえよ!」
何で手握ってんだと宍戸が呆れて、鳳は子供っぽいんだが大人っぽいんだか判らない笑みで宍戸の手を取ったまま電車に乗り込む。
マイペースなのは鳳で、案外型通りなのは自分かもしれないと宍戸は思う。
そんな風にやっぱりあんまり似ていないのに。
一緒にいて、ほんの少しも違和感を覚えない。
二百人もいるテニス部の中で、かなりイレギュラー的にダブルスを組むことになって、いつの間にか一番近い関係になった。
気が合うという一言では片付けられないほど、お互いといることがあまりにも当たり前だった。
「………………」
相変わらず自分の手を取ったまま先を歩く鳳の背中を宍戸はじっと見つめて考える。
長身の後輩は、それでいて普段、人に威圧感を与える事は全くないが、こうして見れば広い背中は骨格がしっかりとしている。
思わず見ている側の力の抜けるような柔らかい笑みを浮かべたり、年下らしい可愛げで頼りなさを見せる事もあるけれど、多少強引な所もあるにはあるのだ。
そして、そんな鳳に手を引かれておとなしく彼の後ろを歩いている自分も、宍戸にしてみれば他では絶対にしない真似だという自覚がある。
一緒にいたいからと誘われるまま、ついていく。
決まっていない行き先に向けて、電車に乗って、二人で。
「宍戸さん、どっち向きで座るのが好きですか?」
しばらく車両を歩き、左側の座席に手をかけて鳳が立ち止まって聞いてきた。
車両の座席は対面式になっている。
電車の中はすいていて、四人掛けのその座席を二人で使っても何の問題もないようだった。
「そりゃ進行方向向いてる方が」
「じゃ、こっちですね」
エスコートでもするかのような鳳に自然に促され、宍戸は腰をおろした。
窓際の席。
その真向かいに鳳が座る。
「……って、お前そっちでいいのかよ」
当たり前みたいに宍戸を優先する鳳に問えば。
「俺は宍戸さんの顔見られればいいんで」
何となく予想の範疇内の即答が返されて、宍戸は横様に、足で鳳の靴の辺りを蹴る。
加減はしたけれど、蹴られた鳳はいつもの柔らかい笑みを浮かべて平然としているばかりだ。
呆れていた宍戸の方が気恥ずかしくなるような甘ったるい笑い顔に、それ以上言いようもない。
宍戸は誤魔化すように窓の外に流れる景色に視線をやった。
鳳がゆっくりと違う事を話し出す。
「鉄道って左側通行じゃないですか」
「………あ?」
「だから、進行方向左側の窓際に座ると景色がいいんです」
「あー……確かにな…」
普段あまり出向かない方角に向かう、乗りなれていない沿線。
窓の外の景色は次第に住居地や雑踏から離れていく。
窓辺の縁に肘をついた手で頬杖して、宍戸は少しずつ変化していく景色を横目に同意した。
「代わるか? 席」
ちらりと鳳に目線を向けて問いかけると、鳳は僅かに首を傾けるようにして笑みを深めた。
綺麗な顔してんなあ、と今更ながらな事を宍戸は考える。
「後ろ向きの景色もいいんですよ」
「そうか?」
「前向きだと前方がよく見えるけど、無意識にずっと視線を動かす事になるから疲れる事もあるんだそうで」
疲れたら代わりますね、としっかり付け足して話す鳳の、優しげで穏やかな声に宍戸は耳をすます。
「後ろ向きだと、去っていく景色をずっと見ていられるから、これはこれで楽しいんです」
ふうん、と宍戸は相槌をうって、その流れで普段だったら絶対言わないような言葉を、ついでにぽろりと零してしまった。
「お前は結局景色と俺とどっちを見てんだよ」
不貞腐れたような声が出てしまったのが我ながら頭が痛いと、宍戸はすぐに後悔したのに。
鳳は驚くでもなく、慌てるでもなく、しっかりとした熱量の宿る甘い目で宍戸を見つめて、笑みを深めた。
「視線を動かさないで、ずっと見ていられるので。こっち側座らせて貰って、俺、すごく得してますね」
結局のところ、景色なんか見ていない目で見つめられて、宍戸は頭が痛い。
何でここで赤くなる。
自分が。
そう思い、とにかくひたすら、頭が痛い。
車窓の景色は、冬の終わりの青空だった。
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