How did you feel at your first kiss?
頭上高くから、どっと落ちてくるような夏の強い日差しの重たさは、ここ連日続いている。
最高気温はいつでも三十度を越えていて、いよいよどうしようもなく夏なのだということを知らしめられている気分だった。
こう暑いと、却って反動で、宍戸の足は自然とテニスコートへと向いてしまう。
例え時間がたいしてない昼休みだとしてもだ。
直射日光の照りつけるテニスコートは誰もいる筈がないだろうと宍戸が出向いた場所であったが、足を踏み入れてみればそこに、宍戸はよく見知った男の姿を見つけた。
相手は宍戸にまだ気づいていない様子で、ラケットを持った長い腕を綺麗にしならせて、繰り返し繰り返しサーブを打っていた。
髪の先から汗が散っている。
前髪を手で荒くかきあげる仕草の合間に彼の表情を目にした宍戸は眉を寄せた。
「長太郎!」
名前を呼べばすぐに気づいて顔を向けてくる。
「宍戸さん」
微笑んだ柔和な顔は普段と変わらないのだけれど。
宍戸の顔つきは一層きつくなる。
「……お前……いつからやってんだ」
「はい…?」
近づいていって宍戸が手の伸ばした先。
指先に触れた鳳の髪は濡れている。
こめかみから頬へと指先を滑らせると、妙にかしこまってじっとしている鳳が、困ったような顔になっていく。
「………宍戸さん?」
「お前、どこか具合悪いのか?」
「何でですか?」
意外な事を言われたように鳳は軽く首を傾けてくる。
宍戸はぴしゃりと言った。
「顔色よくねえよ。昼メシは」
「………ええと……」
「食ってねえのかよ?」
鳳の返事を待つまでもない。
宍戸は続けざまに怒鳴った。
「アホ…! メシも食わねえで、この炎天下でテニスかよ? やりゃあいいってもんじゃねえだろうがっ!」
鳳がここまで汗をかいている様は、宍戸も滅多に見る事が無い。
そのくせ、顔は汗で濡れているが、腕などはさらさらとしていて。
脱水症状でも起こすのではないかと思って宍戸は加減も何もなく鳳を叱り付けた。
長身で一見細身だがしっかりとした骨格を持っている鳳は、その実結構な虚弱体質だと宍戸は思っている。
正確にはデリケートといったほうがいいのかもしれない。
風邪がはやれば素直にその流行にのり、合宿に行けば枕がかわったせいで寝つきが悪くなる。
暑い夏なら例に漏れずに夏バテで、全く持って食べられなくなるのだ。
現にこうして、痩せた頬と疲れきったような気配とに、宍戸は今から購買に行って何か買って来られるだろうかと頭で考え、そして。
考えるより先に行動だと、宍戸が身を翻した時だった。
鳳が、宍戸のシャツの裾を掴んだ。
「…………………」
それは去って行くものに対して、追いすがる子供の仕草そのもので、宍戸は呆気にとられる。
鳳自身も一瞬びっくりしたような顔をしていて、でも宍戸のシャツを掴みしめている指先は外れなかった。
「長太郎…?…」
「すみません………でも、いかないで」
「いかないでって…お前……」
そんな必死な目で何で、と宍戸の困惑は一層深くなる。
すみません、と鳳はもう一度言った。
伏せた目元で、まっすぐに長い睫毛が数回躊躇うように動いた。
何を言いよどんでいるのかと宍戸が怪訝に見つめる先、鳳は小さく低い声で言った。
「夏バテというより……宍戸さんが足りなくてバテてただけだから……」
「………はあ?」
「や、……俺も今ちゃんと判ったっていいますか……」
自分でも夏バテだって思ってたんですが、と。
そっと伺い見るように上目に覗き込まれて。
だいたい鳳の方が宍戸よりも格段に背が高いというのに。
上目遣いなんてしてくるなと宍戸が怒鳴りたくなるのは、その表情に滅法弱い自分を自覚しているからだ。
「宍戸さんが足りなくて、へこんでただけみたいで……」
だから、とシャツの裾を握り締める鳳の長い指に力が入ったのが判る。
そんな理由で体調不良になれるものなのかと、宍戸は呆れたいのも山々なのだが。
錯覚だとか、嘘だとか。
宍戸にも結局思えないし、鳳に言ってもやれない自分がいるのもまた事実だった。
だいたい、この間の週末にたまたま会えなかっただけだろうと、随分と恥ずかしく思いもするのだけれど。
「………宍戸さん、?」
ざっと周囲を確かめて、宍戸は鳳の胸元に身体を寄せた。
鳳の胸元のシャツを片手で掴んで、自分からも引き寄せて。
下から首を反らして唇を塞ぐ。
「し、………」
「…………るせ……食っとけ。これでもとりあえず」
宍戸は鳳の唇を伸ばした舌先で軽く撫でるように舐めてから、噛ませた。
飲み込ませた。
口腔に、それを。
音でもしそうに熱っぽく、鳳は宍戸の舌を引き込んで貪ってきたが、すぐに遠慮がちな手が背中に当てられたので、宍戸は自ら鳳と身体を合わせるように更に近づいて唇を開く。
「………汚れます…って……宍戸さん…」
「………………」
躊躇うように肩を掴まれるのは、確かにこうして密着すれば宍戸の制服のシャツは鳳の汗を衣類越しに吸い込みそうな状態であるからで。
でも。
「お前の汗の味くらいもう知ってんだよ」
「………、……」
汚れるも何もない。
「…濡らせ。好きなだけ」
笑って言ってやれば。
物凄い力で抱き締められた。
唇を塞がれた。
鳳の衝動が一気にぶつけられて、苦しく息は束縛され、抱擁で身体は縛り付けられるのだけれど。
宍戸はそれで満足する。
足りないならば。
我慢しろなどと言う気はない。
足りないならば。
欲しいだけやると、いつでも思って、いるからだ。
最高気温はいつでも三十度を越えていて、いよいよどうしようもなく夏なのだということを知らしめられている気分だった。
こう暑いと、却って反動で、宍戸の足は自然とテニスコートへと向いてしまう。
例え時間がたいしてない昼休みだとしてもだ。
直射日光の照りつけるテニスコートは誰もいる筈がないだろうと宍戸が出向いた場所であったが、足を踏み入れてみればそこに、宍戸はよく見知った男の姿を見つけた。
相手は宍戸にまだ気づいていない様子で、ラケットを持った長い腕を綺麗にしならせて、繰り返し繰り返しサーブを打っていた。
髪の先から汗が散っている。
前髪を手で荒くかきあげる仕草の合間に彼の表情を目にした宍戸は眉を寄せた。
「長太郎!」
名前を呼べばすぐに気づいて顔を向けてくる。
「宍戸さん」
微笑んだ柔和な顔は普段と変わらないのだけれど。
宍戸の顔つきは一層きつくなる。
「……お前……いつからやってんだ」
「はい…?」
近づいていって宍戸が手の伸ばした先。
指先に触れた鳳の髪は濡れている。
こめかみから頬へと指先を滑らせると、妙にかしこまってじっとしている鳳が、困ったような顔になっていく。
「………宍戸さん?」
「お前、どこか具合悪いのか?」
「何でですか?」
意外な事を言われたように鳳は軽く首を傾けてくる。
宍戸はぴしゃりと言った。
「顔色よくねえよ。昼メシは」
「………ええと……」
「食ってねえのかよ?」
鳳の返事を待つまでもない。
宍戸は続けざまに怒鳴った。
「アホ…! メシも食わねえで、この炎天下でテニスかよ? やりゃあいいってもんじゃねえだろうがっ!」
鳳がここまで汗をかいている様は、宍戸も滅多に見る事が無い。
そのくせ、顔は汗で濡れているが、腕などはさらさらとしていて。
脱水症状でも起こすのではないかと思って宍戸は加減も何もなく鳳を叱り付けた。
長身で一見細身だがしっかりとした骨格を持っている鳳は、その実結構な虚弱体質だと宍戸は思っている。
正確にはデリケートといったほうがいいのかもしれない。
風邪がはやれば素直にその流行にのり、合宿に行けば枕がかわったせいで寝つきが悪くなる。
暑い夏なら例に漏れずに夏バテで、全く持って食べられなくなるのだ。
現にこうして、痩せた頬と疲れきったような気配とに、宍戸は今から購買に行って何か買って来られるだろうかと頭で考え、そして。
考えるより先に行動だと、宍戸が身を翻した時だった。
鳳が、宍戸のシャツの裾を掴んだ。
「…………………」
それは去って行くものに対して、追いすがる子供の仕草そのもので、宍戸は呆気にとられる。
鳳自身も一瞬びっくりしたような顔をしていて、でも宍戸のシャツを掴みしめている指先は外れなかった。
「長太郎…?…」
「すみません………でも、いかないで」
「いかないでって…お前……」
そんな必死な目で何で、と宍戸の困惑は一層深くなる。
すみません、と鳳はもう一度言った。
伏せた目元で、まっすぐに長い睫毛が数回躊躇うように動いた。
何を言いよどんでいるのかと宍戸が怪訝に見つめる先、鳳は小さく低い声で言った。
「夏バテというより……宍戸さんが足りなくてバテてただけだから……」
「………はあ?」
「や、……俺も今ちゃんと判ったっていいますか……」
自分でも夏バテだって思ってたんですが、と。
そっと伺い見るように上目に覗き込まれて。
だいたい鳳の方が宍戸よりも格段に背が高いというのに。
上目遣いなんてしてくるなと宍戸が怒鳴りたくなるのは、その表情に滅法弱い自分を自覚しているからだ。
「宍戸さんが足りなくて、へこんでただけみたいで……」
だから、とシャツの裾を握り締める鳳の長い指に力が入ったのが判る。
そんな理由で体調不良になれるものなのかと、宍戸は呆れたいのも山々なのだが。
錯覚だとか、嘘だとか。
宍戸にも結局思えないし、鳳に言ってもやれない自分がいるのもまた事実だった。
だいたい、この間の週末にたまたま会えなかっただけだろうと、随分と恥ずかしく思いもするのだけれど。
「………宍戸さん、?」
ざっと周囲を確かめて、宍戸は鳳の胸元に身体を寄せた。
鳳の胸元のシャツを片手で掴んで、自分からも引き寄せて。
下から首を反らして唇を塞ぐ。
「し、………」
「…………るせ……食っとけ。これでもとりあえず」
宍戸は鳳の唇を伸ばした舌先で軽く撫でるように舐めてから、噛ませた。
飲み込ませた。
口腔に、それを。
音でもしそうに熱っぽく、鳳は宍戸の舌を引き込んで貪ってきたが、すぐに遠慮がちな手が背中に当てられたので、宍戸は自ら鳳と身体を合わせるように更に近づいて唇を開く。
「………汚れます…って……宍戸さん…」
「………………」
躊躇うように肩を掴まれるのは、確かにこうして密着すれば宍戸の制服のシャツは鳳の汗を衣類越しに吸い込みそうな状態であるからで。
でも。
「お前の汗の味くらいもう知ってんだよ」
「………、……」
汚れるも何もない。
「…濡らせ。好きなだけ」
笑って言ってやれば。
物凄い力で抱き締められた。
唇を塞がれた。
鳳の衝動が一気にぶつけられて、苦しく息は束縛され、抱擁で身体は縛り付けられるのだけれど。
宍戸はそれで満足する。
足りないならば。
我慢しろなどと言う気はない。
足りないならば。
欲しいだけやると、いつでも思って、いるからだ。
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