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How did you feel at your first kiss?
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 大きな笹を軽々と担いで現れた河村に、喜び勇んで飛びついたのは菊丸と桃城だった。
「タカさんナーイス!」
「すっげぇ! でかいっすねえ!」
「こんなんでよかったかなあ?」
 二人がかりの体当たりを物ともしないで温厚な返答を口にする河村に近づいていった不二が微苦笑した。
「英二も桃も。タカさんに無理言ったんじゃないの?」
「えー。言ってないにゃー!」
「そうっすよ。不二先輩。俺達が七夕の笹を探してるの見て、タカさんが好意で持ってきてくれたんっすよ!」
 そうそうと頷く河村の人の良い笑顔に不二も表情を和ませて、四人は数日後にひかえた七夕の飾りつけを始めた。
 部活の時間はもうとうに終わっていた。
 着替えをせずに何をしているのかと思ってみれば、と大石が傍らの手塚を見上げた。
「部室にそんな大きなものたてかけて………手塚、どうする?」
「竜崎先生の許可はとってあるそうだ」
「んー…それならいいんだけど」
 大石と手塚は、仕方ないというように顔をあわせて事の成り行きを見守る。
「これ何っすか。桃先輩」
「ああ? 短冊だろ短冊。何だよ越前。おまえ、七夕やったことねえの?」
「……やるって何を」
「七夕は、願い事書いた短冊をこういう笹に吊るすんだよ。そうすっとその願い事が叶うの!」
 ほらお前も書け!と桃城が越前に色とりどりの短冊の中から一枚を手渡した。
 たくさんの短冊を広げて持っていたのは菊丸だ。
「早く大きくなりますように。とかでもいいんだぜー。おっちび」
「………………」
 越前に睨まれても全くめげずに菊丸は笑い、周辺に残っている部員達に短冊を配ってまわる。
「ほい、手塚! 大石も!」
「…………………」
「あ、…ああ…」
 眉を顰める手塚にも臆す所の全く無い菊丸は、次に短冊を手渡した大石の顔を覗き込むようにして首を傾げた。
「大石。乾と海堂は?」
「……確かまだ走ってたぞ。海堂が走り足りないって言って、乾はそのお目付け役で」
「ええー! まだやってんの? あの二人」
 しょうがないなあと菊丸はふくれて、届けに行っちゃる!と短冊片手に走っていった。
 青学のムードメイカー達の賑々しさとマメさとに、感心するやら呆れるやらの青学テニス部員達は、菊丸に渡された短冊に願い事を書き、それらは桃城の手で笹に結ばれた。
 一通り取り付けると、なかなか壮観な七夕飾りになった。
「うおっ……何っすか、この梵字みたいなのは…!」
「俺だ」
「あ、…部長のっすか?」
 あまりに達筆で!と桃城が豪快に笑う。
 筆ペン片手に手塚はその注釈を延々桃城に語り出した。
「……朝食が和食。……ってこれ越前かい?」
「………ッス」
「そっか……越前は本当に和食が好きなんだなあ」
 また今度うちに食べに来いよと河村が言うのに越前は真剣な顔で必ず行きますと頷いている。
 魔方陣みたいなものから、絵馬や伝言板みたいなものまで。
 多様につり下がった短冊を皆で眺めている所に、猛烈なスピードで走って戻ってきたのは菊丸だった。
「やあ、英二。乾と海堂にも書いて貰ったのか?」
 家内安全、と短冊にしたためた大石が話しかけると、菊丸は先ほどまでよりも一層ひどい膨れっ面をしていた。
「英二?」
「もー! やだ、あの二人!」
「書きたくないとでも言われたのか」
「違う! 乾に渡したら書きかけのデータ帳の上ですぐに書いて返してきたし、海堂は俺が並走して渡したら、走りながら書いて渡してきた!」
「………まあ書いただけいいじゃないか」
 苦笑いを浮かべる大石に、菊丸は、ぷうっと頬を膨らませたまま二枚の短冊を突きつけた。
「あの二人! 別々に書かせて、これだにゃ!」
「………………」
 短冊にそれぞれ書かれていた願い事はひどく短い。

 D1

 それだけだ。
 乾の字と、海堂の字。

 そして、菊丸が心底悔しそうにしているのは。
「ダブルス1は俺らだっつーの! 大石も勿論ダブルス1って書いたよな?!」
 願い事の内容にというより。
 図らずとも同じ事を書ける、乾と海堂の息の合い方に、という事が判るから。
「え?……えっと………」
 大石は胃が痛む様な思いで、家内安全の短冊をそっと握りつぶすのだった。
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